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遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン6 黄金に輝く太陽の炉心
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 時間は再び前後して、糸巻と蜘蛛のデュエルに決着がつき、彼女が次の陽動に移る少し前。防音遮断された兜建設謹製ドームの内部では、外の闘争など知る由もなく。申し訳程度の休憩時間の後、今まさにコロシアム2回戦が始まろうとしていた。

「よろしく」

 鳥居と向かい合うなりそう言って頭を下げたのは、この華やかな場にはあまりにも場違いなくたびれたグレーのスーツ姿の男。やや薄くなった頭に若干突き出た腹、そしてよく言えば人畜無害だが悪く言えば何の特徴もない顔つきの、極めて平凡極まりない中年。大げさな仕草で一礼を返しながら、この平凡な男が勝ちあがってくることを予想していた女上司の言葉を思い出す。

『で、だ。1回戦はこんなもんだが、次は2回戦だな。多分勝ち上がってくるのはこっち、青木のおっさんだろうな』

 そう言って彼女は、何のためらいもなく隣のブロックの結果を予想したものだ。

『この青木のおっさんだがな、アタシより年は上だがプロ入りしたのはアタシより後だ。なんでもその前はどっかのブラック会社でソーラーパネルの営業やってる社畜だったらしいんだが、ある時に死んだ目でフラフラ外回りしてたら偶然カードを拾ったらしくてな』
『は、はあ』

 そしていきなり始まった謎の語りに困惑する彼の反応を知ってか知らずか、赤い髪を揺らしながら丸暗記しているらしいその後輩の話をぺらぺらと続けたのだ。

『それまでデュエルモンスターズには興味もない、ルールも何も知らないおっさんが、そのカードにだけは何かを感じたんだろうな。なんとなく拾ってお守り替わりに持ち歩き、イラストを見ては強いのかどうかも全く分からないテキストを何度も読んで、それだけを心の支えにしてたらしい。あ、本人に直接聞いた話だから信憑性は確かだぞこれ。で、そんなときにその会社が倒産したわけだ。急に仕事がなくなった青木のおっさんは少ない貯金でどうにか凌ぎながら、次の仕事を探す時間を丸々つぎ込んで手探りでルールを覚えてデッキも作り、はじめは町内大会あたりからだんだん勝ち上がっていってな。どう見ても素人の、明らかに浮いてるおっさんの姿がマスコミの目について、面白がったスポンサーが付き、あとはとんとん拍子のプロ入りだ』

 なるほど、と目の前の青木の姿を見て、彼はその時の糸巻の言葉にようやく得心がいった。13年前の「BV」事件よりも前の世界では、老若男女のあらゆる人間がデュエルを楽しんでいたといっても過言ではない。町内大会に中年男が出場する光景も、それ自体は何もおかしなことではなかった記憶が彼にははっきりと残っている。
 だが目の前のこのくたびれた男は、なんというか覇気が薄いのだ。デュエリスト特有の匂いというか気配が、妙に薄くしか感じられない。あれから長い時がたった今ですらこの調子なのだから、当時は確かに目
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