暁 〜小説投稿サイト〜
人理を守れ、エミヤさん!
海賊の誉れは悪の華
[1/4]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
海賊の誉れは悪の華




 海賊、黒髭。エドワード・ティーチ。

 彼の者の轟く悪名、時代を跨ぎ。カリブ海を恐怖のドン底に叩き落とした稀代の大悪党。成した悪逆数知れず、蓄えた財宝綺羅星の如し。ある俗説に曰く、黒髭の財宝は国家予算に匹敵し、それを目当てにウッズ・ロジャーズ総督は海賊共和国と渾名されたニュープロビデンス島の平定、海賊の駆逐に乗り出したという。
 ――残忍無比、怜悧狡猾、大胆不敵。傲岸なる海賊エドワードは、銃の名手に非ず。剣の達人に非ず。血に飢えた狂王に非ず。その本質はどこまでも悪党であり、死後反英雄として英霊の座に刻まれようとも彼が改心するなど有り得ない話だ。
 にも関わらず、彼の言動はどこまでも軽く、薄く、他者の蔑みや嘲笑を買う道化のものだった。だが、時間軸の縛りのない英霊の座から仕入れた現代の軽薄な言論を引き出し、それを使っているのは彼の気紛れなどではない。
 生前の経験から純愛に憧れていた。それは確かだ。本当の愛に飢えていた、それも真実である。本物で不変の愛など架空の存在にしかないのではと諦めていた、というのもまた事実だ。だがそれがどうしてあの他者の蔑みを買う言動に繋がる?

 答えは一つ。大海賊、黒髭エドワード・ティーチは『識った』からだ。

 己の暴れ回った世界の狭さ。生前より憧れた星の開拓者により知識として世界を知っていたが、英霊の座に刻まれる事で更に先、星の果てまで人の手が伸びようとしている事実を知った。
 古今に名高き英雄豪傑、無数の冒険、伝説の財宝――それらは過去確かに実在し、現代の世界を見渡すにこれを出し抜くのは己であってもひどく困難であると知った。
 比するにどうか、己の悪行は。神話や伝説の勇者、悪党、怪物の財宝は。たかがカリブ海に一時期君臨した程度ではないか。

 己を遥かに上回る化け物がいる。己を上回る悪がある。これに媚び諂うのが悪党か? 否だ、断じて否だ。己の矮小さを知った、だからなんだ? 悪党は悪党らしく、どんな汚い手を使おうとその喉笛に食らいつかねばならない。例え格上が相手であっても。
 それが故の軽薄極まる言動だった。好きに笑い好きに見下せ、その代わり――『勝つ』のは俺だ。最後に笑うのはこの黒髭だ。海賊の誉れは自由である事と勝つ事、奪う事。悪党の本懐を果たすのが黒髭の矜持――否、海賊の誇り。これに泥を塗る事は誰であっても断じて赦さず決して逃さない。

 屑には屑の、悪には悪の、触れてはならない物がある。越えてはいけない一線がある。

 悪辣、残虐、残忍上等。血も涙もない悪鬼と好きに謗れ。しかし悪は、悪の華を咲かせる者は、外道(・・)であってはならない。
 善良なる皆様につきましては悪も外道も区別はつくまい。だが違う、一流の悪とは己の中に線がある。線引きを行い、そ
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ