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徒然草
34部分:三十四.甲香は

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三十四.甲香は

三十四.甲香は
 甲香というものは法螺貝に似ている貝なのですが小さく口の方が細長くなっていて蓋が付いている貝です。
 それは武蔵国の金沢の入り江に多くありました。そこに住んでいる人達はこの貝についてへなだりと呼ぶのだと仰っていました。
 山に囲まれている都にいますとどうしてもこうした貝について疎くなってしまいます。貝はおろか海のこと全てに関してでありますけれど。この甲香にしても御存知の方は都においてはあまり多くないように見受けられます。それで今こうして書いてみているのですが書いてみましても自分でもどうにもこうにもはじめて見聞きするような気分であります。都にいれば全てを知ることができるわけではありません。海のことになりますととんと疎くなってしまいます。海がないというのもこれまた寂しいことであります。貝を見ることもできませんしそれについて知ることもできません。また海を詠った歌も非常に多くその中にはとても美しく雄々しいものも多々あり実に風情がありよいものであります。また海から出て来た言葉も実に多くそれもまた目や耳を楽しませてくれます。このへなだりという言葉にしても都で御存知の方は殆どおられません。それが何故かといいますとやはり都には海がないからです。人はその目で見るものをようやく己のものとすることができるものでありますから。仕方のないことでありますけれど寂しくもあり。こうして書いてみてもやはりどうにも寂しいものであります。


甲香は   完


                 2009・5・20

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