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【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
滴る氷柱3
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人を驚かせぬ方がよい」
「……そうだな。俺も正直勝手に見られるのはいい気分じゃないぞ」
「ごめんなさい」

 どうやら、エイジの行動は二人にとって快くないものとなったようだ。
 素直に頭を下げ、次からは事前に確認を取ることにする。

「分かればいいのです。こちらにも非はありましたゆえ、ここはお相子としましょう。では天馬、またあとで」

 ゆるりと微笑んだ朧は、そのまま道場を後にした。
 天馬は乱れる息を落ち着かせながら、道場の端にあるタオルで汗を拭いてドリンクを飲む。ぷはっ、と息を吐き、ゆっくり立ち上がりながらエイジに近づいた。

「あのさ。ここで見たこと、他の奴らに言わないでくれるか」
「……理由を聞きたい」
「ずけっと言うなぁ……理由も周りには絶対言うなよ」

 気まずそうに顔を逸らしながら、天馬はぼやくように漏らす。

「俺にはお前らみたいな天才的な才能はねぇ。世界の歪みも大したことねぇ。だから俺が思いっきり強くなるにはこうして地道で格好悪い特訓を毎日積んでいかなきゃならねぇんだ。その為に俺は毎日毎日朧に挑んで、その、負けてる。負けるのは俺が弱いせいだからいいけど……それを周りに知られるのが、なんか、嫌なんだ」
「………」

 その時の天馬の表情を、エイジは上手く読み取れなかった。
 多分よくない感情を、三つか四つ重ねたような表情。
 普段の明るく皆を引っ張る姿と重ならない感情があるのだけは、理解した。

「分かったか?もう二度は言わねぇ。お前に見られるのだって正直嫌なんだぞ?頼れる男キャラが崩壊しちまうっての」

 そういって、天馬は自嘲気味に笑った。いつもの顔に戻っている。

「………理由も含めて、僕にはよくわからなかった」
「おい!……ま、お前天然っぽいしなぁ」
「でも嫌だっていうのは分かったから、言いふらさないようにする」
「なら十分だ。あ、朧のことも言いふらすなよ!あんなに強いってバレると周りとか剣道部とかウルセーことになるからな。本人もそれが嫌だから剣の話はあんまり普段しねえんだ」

 こうして、エイジの二人を知る努力はほんの少しだけ実を結んだ。

(朧さんを気遣うときの天馬の顔は、エデンが僕を気遣う顔と一緒だ)

 その日以来、少しだけエイジは天馬と会話することが増えた。
 
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