五年後 消えた英雄に焦がれる少女と一人の冒険者
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取れない言葉を発した後、頭を片手で抑えて、またゆっくりと再起した。
今度は再び着床せずに、無事座ることが出来た青年は、数秒間呆けて、ベッドから降りる。
覚束ない足取りで向かうのは洗面台だ。
昨晩に汲んできた井戸の冷えた水が入ったバケツに、そのまま顔を突っ込み、両手で眠気を覚ますようにごしごしと顔を洗うと、タオルを手に取り、そのまま顔を拭きながら、また覚束ない足取りで扉に向かい、側に立て掛けてあった安物で使い古された長槍を手に取って外へ出た。
二日酔いの常人なら、いきなり長槍を持って外出する青年の気が知れないだろうが、この青年にとってはこれが生活の一部となっているため、青年にとってはこれが普通のことなのだ。
二日酔いの症状で来る酷い頭痛も、体の気だるさ等の体の異状をも無視をして、青年は宿の敷地である庭で尚も覚束ない足を止めた。
「……昨日は飲みすぎたな。今度からは気を付けよう」
そこで初めて、青年ははっきりとした口調で独りぼやいた。
ここまでは、二日酔いをして、唯朝一番に宿の外で独り言を呟く変人しか見えないだろう。
しかし、そこからの青年は、まるで違って見えることになる。
アリエス王国には、英雄達が居る。
その中でも、際立った活躍を見せたのが、『救国の戦槍』の称号を持つ、エデル・バデレイクという一人の騎士であった。
エデル・バデレイクは斧槍を得意としており、その扱いは剣よりも速く、鋭く、そして長かったと言われている。
踊るように舞い、その度に切り伏せられていく兵士たちの様は、その槍の舞が美しくあるが故に、実に滑稽に見て思えてしまうのだという。
──そして、この青年。
あの勇者にも比肩する英雄であるエデル・バデレイクを連想させるような、速く、鋭く、長く、そして美しい舞いを、こじんまりとした宿の庭で披露しているのだ。
全身の力を、一挙に穂先に集中された突きや薙ぎ払いは、凄まじい風切り音とともに、毎度のように周囲に風を起こさせ、埃を巻き散らかしていた。
時折、体術をも混ぜる、独特のその流派は、あの高名な槍術士の家系であるバデレイク流と呼ばれ、バデレイクに生まれた者のみが習得できる、特別且つ希少なものだ。
ならば、今、宿の庭で非常に完成されたバデレイク流槍術を披露するこの青年は一体何者なのだろうか。
如何にも若者の浮浪者にしか見えない青年がバデレイク家の出身だと言うのだろうか。
いや、そう悩む必要もないだろう。
何故ならば──
「……」
最後の一振りを終え、無言で自然体へ流れる動作で移行するこの青年自体が
「─
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