第三章
[8]前話
エカテリーナは実際に乱のことを必死に自身の周りもっと言えばロシアから消していった。だが今度はだった。
我が子、自身が夫との子ではなく愛人との間の子だと言い夫の血はつながっていない筈の息子パーヴェルの姿を見てだ、廷臣達に言った。
「夫の血は受け継いでいない筈ですが」
「日に日に、ですね」
「先帝に似てきますね」
「顔立ちもご気質も振る舞いも」
「そして好みさえも」
「その筈がないのに」
夫の血は一滴も受け継いでいない筈だがというのだ。
「何故でしょうか」
「おかしなことですね」
「あの方が先帝に似てくるなぞ」
「その様なことは有り得ない筈なのに」
「私は夫に何時まで祟られるのか」
こうも思うのだった、そしてだった。
エカテリーナはパーヴェルを次第に遠ざけていった、あまりにも疎ましくかつ見ているだけで夫を思い出すので。これは長く続き。
側近達にだ、愛する孫であるアレクサンドルを次のロシア皇帝にしようと言った時にはっきりと言った。
「息子を次のロシアの皇帝にするなぞ」
「考えられませんね」
「到底」
「夫がまたロシア皇帝になるのです」
そう想えて仕方ないからだというのだ。
「ですから何があってもです」
「それはですね」
「なりませんね」
「はい、しかし私は今に至るまで」
ロシアに入り即位しそれからもう三十年以上ロシアの女帝として君臨しているがというのだ。
「あの夫に悩まされなかったことはありません」
「左様ですか」
「あの方に」
「どうにもならないあの男に」
無能で何もかもがどうしようもなかった彼にとだ、エカテリーナは忌々し気に言った。そしてアレクサンドルを次のロシア皇帝に定めようとしたが。
その直前に倒れそのまま世を去ってしまった、この時女帝は何も語ることは意識を失っていた為出来なかった。そして次の皇帝はパーヴェルとなった。『父親』であるエカテリーナの夫に生き写しになっていた彼が女帝の跡を継いだのだった。これも因果というものか。
死んだ筈の夫 完
2018・8・8
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