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尉遲敬徳
第四章
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 その目を鋭くさせて尉遲恭を見た、だが尉遲恭は無言で頷くだけだ。こうしてだった。
 二人はそれぞれ馬に乗った、李元吉はここで尉遲恭に言った。
「では私は槍を持つ」
「はい、そしてですね」
「そなたはその噂のだ」
「相手の槍を奪う技を」
「見せてもらう、いいな」
「わかりました」
「槍は本物の槍を使う」
 ここでだ、李元吉は酷薄な笑みを浮かべた。宴に出ている誰もがその笑みで彼の真意を確信した。
「それでもよいか」
「王の思われるままに」
 これが尉遲恭の返事だった。
「それも」
「そうか、ではな」
「これよりですな」
「はじめるとしよう」
 こう話してだ、そしてだった。
 余興という名目で死合がはじまった、李元吉は槍を持ってだった。
 尉遲恭に向かう、そうしてその自慢の槍を突き出したが。
 その槍をだ、尉遲恭は。
 即座にその槍を掴んだ、そうして一気に引き寄せてだった。
 槍を奪った、すると槍を持っていた李元吉は持っている槍を引かれたことで乗馬のバランスを崩してしまってだった。 
 落馬してしまった、その時にもう槍は尉遲恭が両手に持っていた。尉遲恭はその槍を両手に持ち落馬して土に腰をついている李元吉に尋ねた。
「如何でしょうか」
「う、うむ。見事だ」
 李元吉はかろうじて皇族それも王の威厳を保つだけで精一杯であった、その顔には深い驚愕の色が出ている。
「そなたの腕見せてもらった」
「それは何よりです」
「その腕見事だ」
 家臣達に助けられつつ立ち上がって言った、頑丈な身体の為落馬しても怪我はなかった。
「褒美をやろう」
「有り難きお言葉、されどです」
「それはいいのか」
「拙者は秦王様の臣なので」
 それでと言うのだ、こうしてだった。
 尉遲恭は自ら難を逃れそのうえで秦王の下に戻った。秦王は宴が終わってから彼に笑顔で言った。
「見せてもらった、見事だった」
「有り難きお言葉」
「これであ奴も暫くは何もすまい」
 目的を果たせなかったどころか失態を見せたことで消沈してだ。
「よいことだ」
「はい、しかしです」
「やがてはだな」
「もうあの方々との衝突は避けられないでしょう」
「その時は色々と頼むぞ」
「わかりました」
 尉遲恭はこの時はこう返しただけだった、だがやがて秦王李世民が皇帝となってから彼は李世民の下で将軍として働き様々な武勲を挙げて歴史に名を残した。
 この話は尉遲恭の逸話の一つである、彼は戦の采配だけでなくその武芸でも知られていた。晩年は仙人になることを志し隠棲した場所で修行に励み子供達と楽しく遊びもしたという。その彼の晩年の姿からは思いも寄らないが実に勇ましく痛快な逸話と言うべきか。


尉遲敬徳   完


                
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