暁 〜小説投稿サイト〜
戦国異伝供書
第十七話 大返しの苦労その十一

[8]前話 [2]次話
「石見までです」
「そう言うか」
「ですからお任せを」
 山中は浅井に必死の顔で頼み込んだ。
「我等に」
「その気持ちはわかる、しかしな」
「それでもですか」
「ここは敵国、お主達の道案内を受けてもな」
 それでもとだ、長政は山中に言うのだった。
「慎重に進むべきじゃ」
「だからですか」
「逸ることはせずにな」
 このことを避けてというのだ。
「出雲まで向かおう、そして全軍でな」
「月山富田城もですか」
「攻める、あの城は堅城という」
 長政もこのことは知っていた、元就も攻め落とすのに苦労したということは天下に知れ渡っているのだ。
「だからな」
「我等だけではですか」
「攻めてはならぬ、そしてな」
「先に進むこともですか」
「逸ってはならん」
 決してというのだ。
「よいな」
「左様ですか」
「軍勢の進みはこのままでよい」
 今の速さでというのだ。
「わかったな」
「左様でありますか」
「案ずることはない、我等は山陰からも進んでいてじゃ」
「山陽からもですか」
「義兄上は進まれている」
 むしろこちらが主力である、信長は十五万を優に超える大軍を率いて山陽から毛利家を攻めているのだ。
「ならばな」
「孟子家は山陰と山陽で戦い」
「押されておる、だからな」
「その両方で負けていき」
「我等は必ず出雲に至れる」
「だからでありますか」
「我等は伯耆の城を攻め落としていき」
 そうしていってというのだ。
「出雲に向かうぞ」
「そうすればよいですか」
「何度も言うが焦ることはない」
 むしろそうなっては駄目だというのだ。
「だからな」
「では」
「うむ、このままの速さで先陣と道案内を頼む」
「そこまで言われては」
 山陰を進む軍の総大将である長政に強く止められてはだった、血気盛んだが勝手な性分ではない山中は。
 従うしかなかった、それでだった。 
 十人衆を率いて大人しく先陣に戻った、そうして後は長政に言われた通りに軍勢を進めたのであるが。
 長政は浅井家の家臣達にだ、本陣で難しい顔で述べた。
「どうもな」
「はい、山中殿と十人衆は」
「血気に逸ります」
「焦る気質で」
「周りも見ないところがあり」
「そこが心配ですな」
「全くじゃ」
 こう言うのだった。
「おそらくそのせいでな」
「これまでですな」
「ことを果たせなかった」
「その面もありますな」
「そう思った」
「確かに」
 磯野が難しい顔で述べた。
「山中殿も十人衆も」
「強いな」
「そして心根も確かです」
 忠義一徹で私がない、皆そうした者達だというのだ。
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ