34部分:第二話 貴き殿堂よその十二
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第二話 貴き殿堂よその十二
そしてだ。こんなことも言うのであった。
「オットーも」
「弟君が?」
「どうされましたか」
「あれもヴィッテルスバッハの血を引いている」
誰もが知っている、このことをあえて話すのだった。
「そのせいか。近頃」
「それはですが」
「その」
「あの方は」
ここでだった。周りの者も口ごもってしまうのだった。話してはいけないことを話すかの様にだ。そうなってしまっていたのである。
「少し戸惑っておられるだけです」
「じきによくなられます」
「ですから殿下は御気になさらずに」
「憂慮されることはありません」
「長く存在しているとそこに澱みができるものだ」
言われてもであった。その憂慮は消えなかった。
太子は今度は上を少し見上げてだ。それで語るのだった。
「我がヴィッテルスバッハもそうなっているのだろうか。そして」
「そして?」
「そしてといいますと」
「私も。その中にいるのか」
こう言うのであった。彼は王位が近付くその中でその身を憂いに浸らせていた。そして時間があればだ。あの音楽を聴くのであった。
この日はオーケストラだった。室内管弦楽団の演奏を聴いていた。聴くのはやはりあの作曲家のものだった。豪奢なロココのソファーに座りながら聴いていた。
そしてだ。傍に控える従者に対して言うのであった。
「この曲だが」
「ローエングリンですね」
「そうだ、第二幕のだ」
その曲を聴いてだった。
「聖堂への行進曲だ」
「それなのですか」
「エルザ」
この名前を出すのだった。
「エルザ=フォン=ブラバントを祝福する曲だ」
「これがですか」
「これがその曲ですか」
「そうだ、聖堂に向かう曲だ。婚礼の前にな」
それだというのである。
「それなのだ」
「確か結婚といえば」
「このオペラでは第三幕に行われる」
それは知っていた。だが第二幕にもだ。聖堂に向かいそこで周囲が祝福の合唱を贈る。そうした場面の曲なのである。
「だが第二幕でもだ」
「そうでしたね。それは」
「婚礼だが、だ」
そしてだった。太子はここでこう言うのだった。
「その他にもある」
「と、いいますと」
「神の祝福だ」
それだというのだ。
「それは婚礼に限らない」
「そうなのですか」
「それが私にも間も無く及ぶのだな」
次にだ。太子はこう言ったのであった。
「この私にもな」
「はい、王となられれば」
「ローエングリン」
今度はこの名を呟いた。
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