動き
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「これは、ルビンスキー閣下」
丁寧な言葉の中に、わずかな棘をもって、アース社社長であるラリー・ウェインは頭を下げた。画面の前では、禿頭の男がのんびりとした口調で立っている。
脇に立つ秘書らしき男はボルテックと言ったか。
黙っている中でもこちらを値踏みするような視線は、ウェインを苛立たせた。
「いかがしましたでしょうか」
「取引を再開すると聞いてな」
「さすがお耳が早い。少し面倒な事態になり、遅れてはいましたが、ようやく再開する手はずが整いました」
「それは知っている。聞きたいのは、問題がないのかということだ」
「閣下はご心配な性分ですな。その地位では当然かもしれませんが」
ウェインが苦いながらも、小さな笑いを浮かべた。
かけた眼鏡をゆるりとあげて、その真面目な容貌をした青年は唇を曲げる。
「既に輸送を担当するフェアリーの上層部には根回しを行っております。いささか面倒ながらあちらのトップの許可が必要とのことですが。それもアポイントメントはとっておりますし、面談した結果は上々の反応であったと。まず間違いがないかと」
「間違いないという言葉は、上手く行ってから使わないと失敗したとき間抜けに見える」
「失礼しました」
「まあ、それはいい。私は結果さえ聞ければ満足なのだから」
「ご期待には応えられるかと」
「……」
画面の奥で、ルビンスキーの瞳がウェインを見ているのを感じた。
だが、それはいつものことだと、ウェインは静かにルビンスキーを見返す。
無言の時間が過ぎて、ルビンスキーはいつものように表情を変えずに頷いた。
「なら、いい。結果を待つとしよう」
「必ずご期待に沿えると思います」
ルビンスキーがわずかに笑う。
小さく手をあげれば、画面がブラックアウト。
自らの表情が鏡の様に暗い画面に映る。
その顔が、曲がる。
「まったく。心配性の男だ――領主になった経緯を考えれば、そうかもしれないがな」
そうして笑い、こちらも手をあげれば、画面が消える。
手元の書類に再び目を向ければ、リモコンを手にした女性が近づいた。
「お疲れ様でした」
「なに。これくらいどうってことはない――閣下の心配性はいつものことだ。だが、商談が失敗すれば、閣下の心配が現実になる。間違いはないのだな」
「はい。先日の商談の結果では――輸送の件については前向きに考えていただけると」
ウェインが顔をしかめた。
「決定ではなかったのか」
「決定は幹部会議ですると。しかしながら、上層部の一部はこちらに取り込んでおり、フェアリーの代表は許可をしております。形だけのことで、ほぼ確定ではあるかと考えます」
「君も閣下と同じく遠回しな言い方をするな。それならば、確実と言っておけばいい」
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