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戦国異伝供書
第十二話 苦闘の中でその十四

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「それはじゃ」
「危ういでやんすね」
「川の魚には虫が多い」
 このことを言うのだった。
「だからじゃ」
「川の魚は生では食べないことでやんすね」
「海のものでなければな、これは魚だけでなくな」
 信長はさらに話した。
「蟹もじゃ」
「蟹。沢蟹ですね」
 鏡が応えた。
「あの蟹は確かに」
「茹でて食うのう」
「あの蟹を若し生で食べますと」
「泥臭いしじゃ」
「虫もですね」
「おる、だからな」
「沢蟹についても」
 鏡は信長に応えて述べた。
「生では食さぬことですね」
「そうじゃ、だからな」
「茹でたり焼いたりした幸を」
「存分に楽しむのじゃ、そしてな」
「浜松に」
「向かってくれ、戻ればじゃ」
 信長は飛騨者達にその時のことも話した。
「よいな」
「はい、それでは」
「皆生きて帰ってきます」
「武田の軍勢がどれだけ強くとも」
「十勇士達と戦おうとも」
「頼むぞ、わしはこの度死兵は出さぬ」
 浜松、そこにというのだ。
「一人もな。お主達ならばじゃ」
「生きて帰る」
「そうお考えだからですか」
「我等を送られますか」
「そうじゃ、送ってじゃ」
 そしてというのだ。
「竹千代を助けてもらうのじゃ」
「畏まりました」
 ヨハネスは騎士の礼で信長に応えた。
「それでは」
「うむ、皆よいな」
「徳川殿をお助けして」
「そしてじゃ」
「皆生きて帰ってきます」
「多少の怪我は止むを得ぬ」 
 戦だ、傷なくしてなぞない。信長にしてもこれまでの戦で多くの傷を受けている。具足がなければ命が幾つあっても足りなかった。
 しかしだ、信長はあえてこう言うのだった。
「命は拾って来るのじゃ、五体満足でな」
「さすれば」
「わしも軍勢を率いて来るわ」
「では」
「その時にまた会おうぞ」
 生きてとだ、こう言ってだった。
 信長は飛騨者達に宴でふんだんに飲み食いさせてそれからだった、彼等を浜松に送り出した。そして自身も兵を率いて武田家との戦に入る用意をするのだった。


第十二話   完


                 2018・8・1
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