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未亡人
第一章
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               未亡人
 片平直哉は東京の大学に通っていたがある日故郷から来た家の者に対してこんなことを言われたのだった。
「秋田の方にか」
「はい、少し行って頂きたいとです」
 まさにとだ、長年家に仕えている老人は片平に話した。
「そしてその旧家において」
「主の方の後見人をか」
「直哉様にして頂きたいとのことです」
「私が大学を出たら」
「旦那様はその様に言っておられます」 
 老人は片平の細面で引き締まった顔を見つつ答えた。黒い詰襟の学生服がよく似合う顔立ちで背は普通で体格もそうだ。髪の毛は短く整えている。
「その後で」
「もうすぐ私も卒業だが」
「そして卒業されれば」
「故郷で働くことなくか」
「秋田に行かれて」
 そうしてというのだ。
「その様にして頂きたいとのことです」
「そうなのか」
「是非共、お家の方はです」
「兄さんがか」
「伸哉様が無事にです」
 兄であり長兄である彼がというのだ、片平は次男であり家を継ぐことは兄が非常にしっかりした性格で京都の大学を優秀な成績で卒業し家の仕事を的確にこなしていることから家を継ぐ様な話は一切なかった。
 それで彼は卒業したなら役人には興味がなかったので東京で働こうと思っていたがそこで言われたのだ。
「ですから直哉様はです」
「秋田でか」
「そうして働かれて欲しいとのことです」
「そうなのか。そして秋田のか」
「はい、宮田家というのですが」
「宮田家、確か秋田でも有名な大地主だな」
 片平は秋田の宮田家と聞いてこのことを思い出した。
「そうだったな」
「そうです、前の主殿は華族院におられました」
「そうだったな、かなり大きな家と聞いている」
「あの家にです」
「私が後見人として入るのか」
「そうして頂きたいとのことです」
「そうか、わかった」
「そうして頂けますか」
 ここで老人は片平に判を問うた。
「ここは」
「父上が決められたことだな」
「左様です、あちらの家の方とお話をされて」
「なら私に断る理由はない」
 家の長である父が決めたことならとだ、片平はすぐに答えた。彼の家も地元である新潟では大地主であり今は色々な事業をしていて地方財閥と言われる位だからだ。
「ではな」
「はい、宮田家に入られて」
「私は生きよう。では妻もか」
 片平はここで老人にこのことも問うた。
「あちらで娶ることになるのか」
「そのことは」
「何だ、そうではないのか」
「詳しいことはです」
「秋田でか」
「お話して下さい」
 老人はこのことについてはこう言うばかりだった、いささかバツの悪そうな顔で。
「そうして下さい」
「何かわからないがそうなっているのか」
「はい、それでは」
「わかった、しかし宮田家の
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