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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生
38話:救済
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お願いいたします。」

おそらく私より年下だろうが、見事な挨拶をされた。私もきちんと返さねばなるまい。

「パウル・フォン・オーベルシュタインと申します。貴重な機会を頂き光栄に存じます。」

「オーベルシュタイン卿、卿の成績を見れば礼儀作法などすんなりこなせるのは当たり前の事だ。少し無作法な形になってしまったが、私は会食の誘いを今まで断られたことは無かった。誘いを辞退されたのは初めての事でね。なぜなのか確認したくて少し強引にこの場を設けさせてもらった。率直な所を聴かせて欲しいのだ。」

とザイトリッツ様が言葉を続けられた。あとから思えば、蔑む様子が無かったから思う所を話せたのだと思う。

「私は先天的な視覚障害者で義眼なのです。成績でご評価頂いたとはいえ、劣悪遺伝子排除法がある以上、褒められるものでもございません。ですからご気分を害さぬ意味でご辞退したのですが...。」

そういうと、ザイトリッツ様は笑い出し、同席しているシェーンコップ卿は不思議なものを見るような表情をしていた。ザイトリッツ様は笑うのを止めると、すこし真剣な顔持ちで話し出した。

「オーベルシュタイン卿、まだ世の中の広さを知らぬのではないかな。私はまともな眼とやらを持ちながらまともな頭脳を持たない人間を多々見てきた。幼いころに重体になった事はあるが幸いにも五体満足だ。ただ、まともな眼とまともな頭脳、どちらかを選ぶとしたらわたしはまともな頭脳を選ぶね。そういう意味では卿はまともどころか、優秀な頭脳を得た。まともな眼ではなかったとしても義眼で補える。」

普通に話しているのに、私の気持ちは最大限に揺さぶられる思いだった。義眼であろうがなかろうが優秀なものは優秀なのだと言われたようなものだ。

「私も最近、鏡を見た事があるのが疑いたくなるほど見苦しい方を見かけましたよ。まともな頭脳にまともな感性を期待する所ですが、難しい世の中です。」

シェーンコップ卿が何か話していたが、あまり覚えていない。もし私が義眼でなければ、ぼろぼろと涙を流していたと思う。涙を流した経験はないが。ただ、いい話だけでは終わらなかった。

「たが、オーベルシュタイン卿、少し細過ぎるのではないかな。私も7歳からかなりしごかれてつらい思いもしたが、それなりの身体になったから幼年学校で挑んでくる連中はいなかった。義眼は努力ではどうにもならんが、身体は努力でそれなりにはできると思うよ。ワルターもヒイヒイ言いながら鍛錬しているんだ。気が向いたら家の鍛錬に参加してごらん。少しは変わると思うよ。」

私はどちらかというと室内で本を読んだりする方が好みだし。運動は苦手だ。ただ、年下のシェーンコップ卿が励んでいると聞かされては断れなかったし、もし少しでも何か変わるなら、やってみる価値はあるだろう。
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