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石頭
第一章

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               石頭
 大代吟次はこの時ふらりとある城下町に来た、今回もただふらりと来ただけですぐに出るつもりだった。
 しかし街を歩いている時にだ、彼の常であるが街のならず者達が若い娘をからかっているのを見た。
 見て見ぬ振りをしようとしたのも彼の常だったが結局騒ぎに巻き込まれてしまうのも彼の常であって。
 その通り過ぎようとした彼にだ、年寄りが言ってきた。
「お侍さん、どうか」
「どうかってあっしに言ってるのかい?」
「そう、お侍さんにだよ」
 必死の声で言うのだった。
「頼んでるんだよ」
「あの娘さんを助けて欲しいっていうのかい?」
「そうだよ、わしの孫娘なんだ」
 それでというのだ。
「最近店にあの連中が来ていて」
「それでああしてかい」
「店の外でも嫌がらせをしてきてるんだよ」
「それをあっしにだね」
「孫を助けてくれないかい」
「そう言われてもね」
 これも常だが吟次は断ろうとした。
「仕方ないだろ」
「仕方ないって孫が危ないのにかい」
「降りかかる粉は何とやらだよ」
 自分で何とかしろというのだ。
「やっぱりね」
「そこを何とか」
 年寄りはそこから孫娘にもう親はなく祖父一人孫一人で小さなうどん屋を切り盛りしていることを言った、そしてそこにこの辺りで最近急に幅を利かせてきたヤクザ者達がショバ代を要求してきたと言ってきた。
「親分が代わってだよ」
「あれかい、今度の親分はかい」
「これがとんでもない奴で」
 それでというのだ。
「賭場を開くだけじゃあき足らず」
「街の店からショバ代をせびって」
「うちにもなんだよ」
「そりゃひでえ奴だな」
「それで払えないって店にはああして嫌がらせをするんだよ」
「そうかい、しかしあっしはな」
 只の流浪人だと言うのだった。
「だからな」
「見捨てるってのかい」
「悪いがな、しかしな」
 年寄りがあまりにも必死で言うのでだ、やはり彼の常として。
 情にほだされてだった、年寄りの頼みを聞くことにして。
 娘に言い寄り続けるならず者達の方に言って止める様にいった、当然これでならず者達は収まらず。
 吟次につっかかった、こうなっては彼も受けて立たない訳にはいかず。
 頭突きと蹴りで彼等を薙ぎ倒した、こうして娘を助けたが。
 今度は街で店を開いている者達にだ、こう言われた。
「あの連中しつこいですから」
「またやってきますよ」
「それも親分自ら」
「ならず者達を大勢引き連れて」
「そう言うが成り行きでな」
 吟次は彼等にこう返した。
「あっしとしても出来るだけだったけれどな」
「わしがどうしてもと言って」
 孫を助けてもらった年寄りもここで言った。
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