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少年の籠
第四章
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「それが出来る様になったの」
「よし、それではすぐに行って来るよ」
 アナ=イルは漁師の家の養子だ、それで家にある銛を一本持って行ってそうして一人で森に入った。そうして。
 激しい闘いの末虎を倒してその毛皮を持って村に帰った、これにはアナ=イルに嫉妬していた養父も仰天した。
「御前があの虎を退治したのか」
「うん、そうだよ」
 アナ=イルは養父に答えた。
「天女が授けてくれた指輪が守ってくれたからね」
「だからか」
「うん、それでなんだ」
「虎を倒したっていうのか」
「倒せたんだ」
 倒したのではなく、というのだ。
「指輪の力は守ってくれる力だったからね」
「しかしそれでもか」
「それでもっていうと」
「虎を一人で倒しに行ったのか」
「だって村の、島の皆が困っているから」 
 アナ=イルは当然といった声で答えた。
「だからね」
「それだけでか」
「うん、僕は虎を退治したんだ」
「指輪が守ってくれるといっても」
 それでもと言う養父だった。
「それだけでか。何という男だ」
「そんなに驚くことかな」
「驚かないでいられるか、皆が困っている、守られているからというだけで一人で虎を退治しに行く。それにだ」
 養父はアナ=イルにこうも言った。
「米や魚も出したな」
「皆が困っているからね」
「溢れるだけ出したな」
「そのこともどうかしたのかな」
「どうしたかじゃない、御前は惜しく思わなかったのか」
「押し入ってお米やお魚が?」
「自分で持っていて売ればかなり儲けられたんだぞ」
 金で売り買いをすればというのだ。
「それをしなかったこともだ」
「お養父さんは驚いているんだ」
「驚かずにいられるか、御前は怖くなくて欲もないのか」
「僕は普通に食べられて恋人もいるから」
 それでというのだ。
「もう充分だからね」
「何て奴だ。しかしそんな奴だからか」 
 ここで養父はわかった、アナ=イルのことが。それで言うのだった。
「天女も助けてくれるんだな」
「そうなるのかな」
「ああ、御前がそんな奴だからな」
 それ故にと言うのだった。
「そうか、全く大した奴だ」
「僕は全然大したことじゃないよ。全部天女がくれた道具を使ってだから」
「その道具を授けさせること自体が凄いんだ」
 こう言ってだった、養父は以後アナ=イルを邪険にすることがなくなった。彼はそれからも村や部族、島の者達に何かあればすぐに動き天女がその彼に道具を授け助けた。
 そしてやがて天女と結ばれたがその彼をだ。トラジャ族の者達は自分達の王に押し戴いた。するとアナ=イルは王になってからも彼等の為に働き続けトラジャ族は彼が王の間乱れることなく栄え続けた。インドネシアに古くからある物語である。


少年の籠   完

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