暁 〜小説投稿サイト〜
戦闘携帯への模犯怪盗
OPENING:アローラ、僕の一番好きな海
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を払って立ちあがる。
 ポケットの中のスマートフォンを出し、アローラのニュースを見る。最新記事には、二つの写真が添付されていた。一つは、透明なガラスに複雑な線の意匠が施された、女性用の小さな靴。

「これが『移ろいの靴』……ラディに一回履かせてみたいなあ。壊れたら嫌だけど……あいつ綺麗な靴とか好きだし」

 『移ろいの靴』とは非常に珍しいポケモンの体の一部を使用して作った靴で、これを履いた人は普段我慢している感情が解放されると言われている。が、ガラスに近い材質の靴なので壊れるのを恐れて滅多に履こうとする人はおらず、ブティックにひっそりと保管されている幻の靴である、と記事に書かれている。
 そしてもう一つの写真。赤青の水玉模様の便せんにゴシック体で文字が書かれている。

「本日夜八時、ハウオリシティのブティックにある『移ろいの靴』を頂きに参上する。怪盗クール・ピーター・ルーク」

 クール・ピーター・ルーク。このアローラ地方に3年前から現れ、ポケモンを巧みに操り様々な貴重品を盗み出す彼は、怪盗だ。
 貴重品を盗むためにわざわざ予告状を出して警備を集め、衆人環視の中で派手に盗むことを生業とする。そんな人間は昼も夜も電気の光で溢れ、眠る前布団に入っている時ですら端末一つで世界と繋がれるようになった今、過去の遺物となったと思う人もいるかもしれない。
 だが、違う。
 闇はいつでもすぐそこにある。端末では発信できない浪漫がある。それを信じ、求める人間がいる限り怪盗は消えてなくならない。
 【自分の】本名が書かれた予告状を見て、クルルクの口の端が歪む。

「よーし、ちゃんと届いてるみたいだね。僕の予告状」

 彼は来ていたTシャツと半ズボンを放り投げる。そして次の瞬間には赤いジャケットに黒のデニムパンツ。シルクハットまで身に着けた彼は、本の中に出てくる怪盗そのものの姿になっていた。腰には、六つのモンスターボールまで装着されている。その中の一つから、アローラ地方を象徴するポケモンの一匹、ライチュウを呼び出す。こげ茶色の丸い体を自らの尻尾に乗せた彼は、待ちくたびれたと言いたげな顔で周りに電磁波を走らせる。

「今日も頼むよ、ライアー」
「ライライアー!」

 ライチュウのニックネームを呼び、クルルクは頭のシルクハットを指でくるくると回す。薄い鉄で作られた特注品のそれは、四回転ちょうどで真っ平に凹んでから大きく横に伸びた。帽子の上の部分が伸縮する高枝切りバサミのようにたくさんのより薄い鉄板を収納しているのだ。それをスケボーのように足に乗せ、準備は完了。ライチュウの発した電気が、鉄のスケボーに磁力を帯びさせ、周りの磁場と引き合う力と反発する力が作用し、水上スキーのようにライチュウの後についていく。


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