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天使の名前
第一章

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               天使の名前
 アンジュ=シーニーは自分を産んでくれた親を知らない、父親も母親もどちらの顔も名前も経歴も一切知らない。
 誰に聞いても知らない、そして知らないままだ。
 今の両親に引き取られた、その両親は教会の牧師の夫婦で年老いても子供がいなかった。その中でアンジュを引き取ったのだ。
 アンジュは教会で二人に暖かく優しく育てられている、教会の信者は多くいい人達ばかりでアンジュにとってこのこともいいことだった。 
 だがアンジュにだ、教会に来たある人がこう聞いてきた。
「君は寂しくないのかい?」
「寂しい?私がですか」
「うん、そう思う時はないかい?」
「別に」
 アンジュはその人にどうかという顔で答えた。
「ないです」
「それはどうしてかな」
「どうしてと言われますと」
 アンジュはどうかという顔のまま再び答えた。
「お父さんとお母さんがいますし多くの信者の人達も」
「いてくれているかな」
「血がつながっていないことはわかっています」
 アンジュにしてもというのだ。
「そのことは」
「既にだね」
「はい、私は施設で育っています」
 児童養護施設、そこでというのだ。
「産んでくれたお父さんとお母さんは知りません」
「そしてだね」
「施設にいて」
「今のご両親に引き取ってもらって」
「育ててもらっています」
 そうなっていることをだ、アンジュはありのまま話した。
「今も。ですが」
「寂しいとはだね」
「本当に思ったことはありません」
「いいご両親なんだね」
「そう思います」
「血はつながっていなくても」
「優しくて素晴らしいお父さんとお母さんです」
 二人の笑顔を思い浮かべつつだ、アンジュはその人に答えた。
「誰よりも」
「そう思うんだね」
「はい、本当に」
「では君のお父さんとお母さんは」
「今のお父さんとお母さんです」
 まさにというのだ。
「他の誰でもないです」
「そう、だからだね」
「私は寂しくありません」
 自然と微笑みになっていた、アンジュは微笑みと共に言った。
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