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ラジェンドラ戦記〜シンドゥラの横着者、パルスを救わんとす
第三部 原作変容
第二章 神徒駆逐
第三十一話 内海避客
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単には行くまい。今以上に細心の注意を払わなくてはな。

とは言えすぐには奴らの襲撃もなく、仕事に追われるナルサスやアルスラーンを尻目に、特にやることもなく、呑気に過ごしていたのだが、そんなある日ジャスワントに告げられたのだ。

マルヤムの内親王が一万五千の兵を率いて、アクレイアの城を脱出し、ダルバント内海を渡ってやって来た。そして、ラジェンドラ王子にお目通りしたいと願っていると。

◇◇

マルヤム王宮の女官長たる私、ジョバンナが、内親王の最後の肉親が息を引き取った旨をお伝えすると、この内親王が初めて涙を流すのを私は見た。一年半以上に渡る厳しい籠城戦の最中でも決して弱音を吐かず、皆を励まし続けたこの御方がこの様な表情をされるとは。

しかし、それも僅かな間のことだった。内親王はこのアクレイア城を放棄し、周辺からありったけの船を徴発した上でダルバント内海を渡ってパルスに赴くことを決断された。詭計を用いてルシタニア軍の一部を退けたとは言え、増援のないこちらはこのまま籠城を続けてもいずれはジリ貧になるだけ。ならばまだ士気が保たれている今のうちに兵を損じぬよう内海を渡り、パルスで味方を得て、その上で故国の回復を目指そうとこの方は言うのだ。

「では、パルスでどなたをお頼りになられるおつもりでしょうか?」との私の問いに、内親王はかの王子の名前を告げた。感心しないと言った表情が思わず出てしまった私に苦笑しながら、他に誰を頼るのかと強い眼差しを私に向け、莞爾として笑ったのだった。

その笑みを見たとき私は決めたのだ。内親王がかの王子に賭けるように、私どももこの内親王に全てを賭けようと。

◇◇

マルヤムのイリーナ内親王か。前世ではともかく、王族として生まれ育った今の俺にとって、最も嫌いなキャラクターが彼女だ。

国王と王妃がボダンや聖堂騎士団に殺され、姉のミリッツァ内親王がアクレイア城の落城の際に命を落とした以上、彼女こそがマルヤム王室最後の生き残りだった。だが、一体彼女が故国のために何をしたというのだろうか。ギスカールにあれだけ周到にお膳立てしてもらったにも関わらず、仇敵のイノケンティス王すら殺せなかったではないか。いかに盲目とは言え、王族なのだからな。自決の方法ぐらいは教わっていただろうよ。それを応用して首筋を狙えば盲目で非力な彼女であっても、惰弱なイノケンティスの一人や二人は殺せたはずだ。実際この世界のタハミーネですらイノケンティス王を殺せたんだからな。

そして、イノケンティス王の殺害に失敗して以降、彼女は故国回復のためには一切何もしていない。せいぜい、姉のミリッツァ内親王に申し訳ないと口で言うだけのことだった。トゥルクに夫婦で亡命し、三年間何もしないでヒルメスとイチャコラして過ごし、出産に際して母子ともに命を落とした
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