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戦国異伝供書
第二話 百姓の倅その一
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                第二話  百姓の倅
 この時木下藤吉郎は家に帰って溜息ばかりついていた、それで母に言うのだった。
「わしは是非な」
「侍になってだね」
「身を立てたいというのに」
 己のその願いを言うのだった。
「そして母上達にじゃ」
「贅沢をかい」
「させてやりたいと思っておるのじゃが」
「そう言うけれどね」
 母はその木下を慰める様にして言った。
「お侍になろうと思えばね」
「戦に出るな」
「戦に出たら手柄を立てたらいいけれど」 
 それが出来ればというのだ。
「それが出来なかったら下手したら」
「討ち死にじゃな」
「そうなってしまうよ」
 こう我が子に言うのだった。
「しかもあんたときたら」
「うむ、身体は小さくてじゃ」
 木下は自分の身体のことがわかっている、それで自分から言った。
「力もない」
「そんなので戦の場で出てもね」
「いや、その分すばしっこいしじゃ」
 木下は母に今度は自分の長所を話した。
「そして頭の回転にも自信があるぞ」
「それじゃあそういうのでかい」
「そうじゃ、お侍になればじゃ」
 そうなればというのだ。
「必ずじゃ」
「身を立てるっていうのかい」
「果ては一城の主じゃ」
「大きく出たね、お城の主なんて」
「しかしそうなってみせる」
 木下は母に強い声で言った。
「絶対にな」
「じゃあまたかい」
「うむ、仕官する」
 何処かの家にというのだ。
「そうするわ」
「全く、今川様からは暇を出されて戻ってきたというのにね」
「何あれはたまたまじゃ」
 今川家に仕えていてもそうなってしまったことには笑ってそれで済ませてしまった。
「他の家なら違うわ」
「じゃあ今度は何処にお仕えするんだい?」
「さて、それじゃが」
 母の今の問いにはだ、羽柴は腕を組んで首を傾げさせてこう返した。
「どうもな」
「まだだね」
「決めておらぬのじゃ」
 そうだと言うのだった。
「これがな」
「おやおや、決めていないのかい」
「まだのう」
「呆れたことだね、じゃあね」
「それではか」
「今の商売をしながらね」
 針を売るそれをというのだ、口が長けて相手の気分も読める木下は商売に向いていてこちらでは結構儲けているのだ。
「その方を探すのがいいよ」
「そうするとするか」
「この尾張でもね」
「尾張といえば今度清州に行くが」
「あそこのお城の方にかい」
「うむ、商いでな」
「あそこの殿様は随分変わった方だそうだね」
 清州と聞いてだ、母はこんなことを言った。
「よくそう聞くよ」
「織田の吉法師様じゃな」
「今は元服されたけれどね」
「あの方は最近話題じゃな」
「奇矯な方だっていうけれどね」
「何かご領地は凄いらし
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