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カラミティ・ハーツ 心の魔物
プロローグ 心の魔物
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――人は、心を闇に食われたら、魔物になる――。
 それでも、だからこそ。
 この厳しい世界で、手を取り合って笑い合いながら、
――生きていくんだ。

  ◆

「魔導士部隊、位置に着け!」
高らかに響くラッパの音。リュクシオン・エルフェゴールは隣を見た。
「ついに来ましたね、この時が」
「ついに来たな、総力戦が」
 彼の隣に立っているのは、この国の王。王は難しい顔をして、リュクシオンに言った。
「リューク、いけるな?」
「はい、あと少しで準備ができます。しばしお待ち下さい」
「頼りにしてる」
 戦が始まった。国を懸けた戦いが、始まった。逃れられない戦いが、大切なものを守るための防衛戦が、始まった。始まってしまった。一方的に。防衛側のことなんて露ほども考えられずに。――侵略する側というのはそういうものだ。
 この国、ウィンチェバル王国は小さい割には資源が豊富である。そのためこれまで多くの国々から狙われ、侵略されてきた。それをすべて退けられたのは、ひとえにこの国の魔導士部隊のおかげである。それなりの侵略ならこれまで何度かあったが、今回のは規模が違う。攻めてきたのはローヴァンディア、ウィンチェバル王国の西に位置する大帝国で、その武力は世界の中でも随一を誇る。
 リュクシオン・エルフェゴールは目を細める。自軍は四千、敵軍は一万。あまりにも圧倒的すぎる戦力差に、思わず膝を屈したくなる。それでも彼はぐっとこらえ、己の中で、三日三晩不眠不休で練り上げてきた魔力の蓮度をさらに高める。敵が来るのはわかっていた。だから彼は、この日のために――。
風が吹き、彼の茶色の髪を揺らす。その下で、空色の瞳が、疲れたような色を見せながらも力強く輝いた。彼の髪を揺らした風は、彼の羽織った薄青の外套によって、服の中への侵入を阻まれる。空から雪がはらりと落ちて、彼の茶の革靴の上に落ちて融け消えた。今は冬、寒い季節だ。彼の細いその首には、藍色のマフラーが巻かれていた。
 彼ことリュクシオン・エルフェゴールは召喚師だ。この世とは違う世界に呼び掛けて、その世界の存在を言葉によって縛りつけ、使役する。それが召喚師の御業。召喚師というのは才能で、生まれつき「違う世界」を認識できる者の中でもごく一握り、「縛りの言葉」を感覚によって体得し、呼び出した対象によって臨機応変に「言葉」を使い分けられる者だけが召喚師になれる。それなりの魔力を持っていることも召喚師であることの必須条件である。召喚師は魔力を消費して「違う世界」に呼び掛けるのだ。彼らはこの国ウィンチェバル王国にはほとんどいないが、最も召喚師の排出率が高いとされる国でもその割合は全人口の零点一パーセント程度と、絶対数は非常に少ない。
 リュクシオン・エルフェゴールは、そんな召喚師の一員だ。しかし彼の場合は生まれつき召
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