花言葉
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彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
斜めに差した日傘の下、妖艶な笑みを彼女は見せていた。
彼女はダフネといつも名乗った。それはある花の別名だった。その花とは……。
ある王国で二人の交わした、ささやかな「約束」の物語。
◆
彼と彼女は幼馴染だった。平民の子である彼と、どこかの偉い人の令嬢であったダフネ。二人には本来は出会うことすらあり得ないほどの身分の差があった。しかし彼らは幼馴染であった。
それは彼が八歳の時のこと。道に迷った彼は誤って、貴族や偉い人々の住む高級住宅街に足を踏み入れてしまったのだ。そんなところをある貴族に見つかった。本来ならばそのままつまみ出されてもおかしくはないくらい、彼は場違いだったのに。
そこをお付きの人間とともに一人の少女が通りかかり、淡く微笑んだのだった。
「まあまあいいじゃないですか。彼は悪意あってここに来たのではないのでしょう？」
日傘を差した、金の髪に淡紫の瞳のダフネが。彼よりも二つ年上だったダフネが、当時彼はまだ名前すら知らなかったダフネが、そんなことを言った。
お付きの人間は困ったような顔をした。
「しかしダフネ様、彼はどう見てもここにいるべき者ではないように見受けられるのですが。目障りでしょう、即刻つまみ出した方がよろしいのではないでしょうか」
「誰が私の意思を勝手に決めていいっていいましたの？ 私は私なりに行動しますのよ、誠実のカンパニュラ」
お付きの人間に柔らかく笑って、彼女はそう返した。その日も彼女の身体からは、甘い匂いが漂っていた。
彼女は固まったままの彼に、優しく訊いた。
「ねぇ、あなたの名前はなんておっしゃるのかしら」
差し出されたのは綺麗な、あまりに綺麗な貴族の手。平民の彼が握るには、あまりにももったいないような気品にあふれた貴族の手。
彼は彼女に触れるのが怖かった。彼女に触れたら何かが壊れるような気さえした。
だから彼はその手を取らずに、名前だけを告げた。
「クローバー」
それはどこにでも生えている雑草の名前。平民の彼にはお似合いな、つまらない名前。
ダフネ。美しい響きの名前に比べて彼の名前のなんと、なんと貧弱なことか。名前負けしている彼は自分の名が恥ずかしくなってうつむき、ぎゅっと唇を噛み締めた。
教養のない彼は知らない。その小さな雑草の持つ、花言葉なんて。
彼女はその名前を聞いて、花が咲いたように笑った。
「クローバー！ いい名前ですわね！」
彼女はその花言葉を知っていたから。
驚く彼。彼女に触れることを恐れた彼の手を取って、彼女はその花言葉を告げた。
彼女の手は、優しい温もりを持っていた。
「ご存知ですの？ クローバーの花言葉は、幸運と約束」
幸
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