第五章
[8]前話
「私は」
「そうでしたか」
「はい、先程も申し上げましたが卍はです」
「日本ではですね」
「仏教のお寺も表していますので」
それでとだ、彼は夫婦にまたこのことを話した。
「よく見ます、ですが決してナチスとは関係ないので」
「それで、ですね」
「安心して下さい」
「わかりました、では」
「はい、私はこれで」
日本人は穏やかな笑みで夫婦に別れを告げて店を後にした、そして夫婦は二人に戻るとだった。
すっかり背を丸めてだ、恥ずかしそうに話をした。
「全く以てな」
「恥ずかしいことをしたわね」
「ああ、本当にハーケンクロイツかと思った」
「禄に見もしないで」
「じっくり見れば違う」
本当に逆で傾いてもいない。
「似ていてもな」
「それで迂闊に騒いだら」
イゾルデは恥ずかしがる顔のまま夫に話した。
「今の私達みたいにね」
「恥をかくな」
「ええ、これからは気をつけましょう」
「何事もな」
「よく見て考える」
「そうしないとな」
二人はこのことを理解した、日本に来て。そしてドイツに帰ってだった。シュターゼンは駅で部下達にこのことを話した。
するとだ、部下達は彼にこう言ったのだった。
「へえ、そうなんですか」
「日本にはそんなマークもあるんですか」
「ハーケンクロイツとは逆の」
「そうしたマークが」
「そうだ、しかしハーケンクロイツじゃない」
このことは厳然たる事実だというのだ。
「仏教のマークでな」
「あちらの領主さんの家紋ですか」
「それにも使われていたんですね」
「ナチスよりずっと前に」
「徳島を治めていた」
「そうだった、君達も日本に行ったら気をつけてくれ」
シュターゼンは自分の経験から部下達に話した。
「間違えたり騒いだりな、私の様にするとな」
「恥をかく」
「そうなりますか」
「そうだ、ハーケンクロイツを否定してもな」
ドイツにとっては忌まわしいナチスの象徴であってもだ。
「しかしだ」
「それでもですね」
「似ているだけで全然違うマークもある」
「他にもありそうですしね」
「そこは注意してだ」
そのうえでというのだ。
「旅行も他のものも楽しんでいこう、ではだ」
「はい、今日もですね」
「仕事ですね」
「もうすぐ電車が来ます」
「そして乗り降りする人達も」
「そちらに励もう」
こう言ってだ、シュターゼンは立ち上がって制服の一部である帽子を被った。部下達も彼に続きプラットホームに出た。旅行から帰った彼は新たなことを知ってより賢明な顔になっていた。
卍の家紋 完
2017・10・21
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