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廃人
第三章
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「和美おじさんは」
「その和美が死んでね」
「余計になんだ」
「あの子はああなったんだよ」
「そうだったんだ」
「駄目になった自分が生きてこれからの和美が死んだって思って」
 それでというのだ。
「ああしてね」
「一人でいる様になったんだね」
「ずっとね」
「そんなことがあったんだね」
「ああ、あんたは好美と仲いいね」
「そのつもりだよ」
 流石に中学からは部活だの何だので忙しくなり好美の家に行くことは稀になっている、だが好きなのは事実だ。
「いい人だからね」
「全く、戦争に行ってね」
 祖母は彼のことも悲しい顔で話した。
「変わったよ」
「そうなんだね」
「結婚していればよかったのに」
 残念そうに言う祖母の言葉が耳に残った、それでだった。
 慎太はある日久し振りに好美の家に行った、好美は彼が子供の頃と比べるとかなり老け込んでいた。しかし端整な顔はそのままだった。彼は慎太が自分の家に来ると笑顔で出迎えてこう言った。
「久し振りだな」
「うん、そうだね」
「漫画を読みに来たのかい?」
 子供の時の様にとだ、好美は笑って聞いてきた。
「それなら幾らでもな」
「ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
「うん、いいかな」
「きんつばあるけれど食うかい?」
 好美は慎太に笑ってこう応えた。
「今から」
「うん、それじゃあね」
「お茶も出すな」
 こう言ってだ、好美は慎太を自分の家に入れた。そうして狭いが奇麗に掃除されている家の居間の中で。
 二人で話をはじめた、慎太は自分にお茶ときんつばを出してくれた好美にすぐに言った。
「お祖母ちゃんから聞いたけれど」
「結婚のことか?」
「あの人だよね、俺が子供の頃の」
 好美の目を見ての問いだった。
「急に家に来た奇麗な」
「あの人だよ」
 その通りだとだ、好美は慎太に答えた。
「あの人が家に来てな」
「叔父さんに結婚を申し込んだんだ」
「そうだったんだよ」
「けれど叔父さんは」
「断ったんだよ」
 好美は慎太に笑って答えた。
「そうしたんだよ」
「折角だから受ければよかったのに」
「だからわしはもうな」
「廃人だっていうんだ」
「そうさ、ヒロポンが残っていて足も悪いな」
「だからなんだ」
「ただ生きているだけのな」
 そうした者だからだというのだ。
「結婚はしなかったんだ」
「相手を養えないとかじゃ」
「何でもあの人は結構な土地持ちでアパートとかも沢山持っててな」
「お金持ちだったんだ」
「わし一人位何でもないと言ってたよ」
 そこまでの財力はあったというのだ。
「そう言ってたよ」
「それでもだったんだ」
「ああ、わしみたいな人間と一緒になるよりはな」
 それよりもというのだった
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