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廃人
第二章
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「じゃあ上がって、お茶と羊羹があるしね」
「それでは」
「ああ、あんたはな」
 好美は慎太に対してはこう言った、自分を慕ってくれる甥には。
「ちょっと家に帰ってくれるかい?」
「お家に?」
「漫画は明日にでもうちに来てな」
 実は慎太は好美が漫画が好きで沢山持っているのでそれを読みに来ることも多いのだ。勿論自分に優しい好美も好きだ。
「読んでくれるかい?」
「うん、じゃあ」
「またな」
「うん、明日ね」
 慎太は好美に笑顔で応えた、この時好美は彼に飴を与えた。そうして慎太は家に帰って好美は女性と話をした。
 その次の日好美は何もなかったかの様に自分の家に来た慎太を優しく迎えた、だが慎太が昨日の女性について聞くとほんの少し笑ってこう答えた。
「何でもないさ」
「何でも?」
「ああ、何でもないさ」
 そうした人だというのだ。
「別に」
「何でもない人なんだ」
「そうだよ、じゃあ漫画は何読むんだ?」
「ううんと、今日はね」
「イガグリ君読むか?」
 好美はこの漫画の新刊を出してきた。
「それとも手塚治虫がいいかい?」
「最初はイガグリ君読んでいい?」 
 慎太はイガグリ君の新刊を見てそちらに心を惹かれて答えた。
「そうしていい?」
「ああ、じゃあな」
「うん、イガグリ君読んでね」
「手塚治虫だな」
「そっちを読むよ」
 こう答えてだ、慎太は好美の住んでいる西成の小さな借家の中で本を読んだ。家と家がそのままつながっている狭く小さく庭もないが人一人が住むには十分な場所だった。
 慎太は好美が好きなままだった、自分をどうしようもない奴と言う好美だが優しく穏やかなのでその気質が好きなのだ。それで中学に入っても高校生になっても好美のことについて悪い印象はなかった。
 だがある日だ、自分の祖母近所に住んでいる彼女に聞いた話に驚いて祖母に聞き返した。
「それ本当のこと?」
「そうだよ」
 祖母は高校二年になっている彼に穏やかな声で答えた。
「あの子にはね」
「そんな話もあったんだ」
「結婚を申し出てきた人もいたんだよ」
「そうだったんだ」
「いい人だったみたいだから」
 祖母は孫に饅頭を出しつつ残念そうに語った。
「所帯持っていればね」
「おじさんずっと一人だしね」
「よかったのにね」
「おじさん今も一人だからね」
「ずっと一人だよ、あの子は」 
 我が子を惜しんでの言葉だ。
「戦争で足を悪くしてヒロポンも覚えてね」
「ヒロポンは止めたじゃない」
「それでも自分でもそう言ってね」
「ああしてなんだ」
「ずっと一人だよ、特にね」
「特に?」
「和美がね」
 祖母はここで悲しい顔になって慎太に言った。
「あの子がいなくなってから余計にああなったよ」
「ええと、お祖母
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