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同期の桜
第一章

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               同期の桜
 俺が貴様と会った時のことを覚えているか、俺は一度も忘れたことはない。
 兵学校に入ってその日に貴様と会った、同じ部屋だった。
「貴様は山口か」
「そうだ、貴様は香川だな」
「そうだ、言葉でわかるな」
「ああ、そして俺も言葉でわかったな」
 俺は貴様にこう言ったな、俺は覚えているぞ。
「俺の言葉は長州の言葉だ」
「長州で陸軍に行かなかったのか」
「ははは、誘いはかけられたがな」
 俺は笑って貴様に答えた。
「陸軍よりもと思ってな」
「ここを受けてか」
「見事受かった、そして貴様はか」
「俺は陸軍は落ちた」
 士官学校の方はとだ、貴様も笑って俺に言ったな。
「そしてこっちには受かってな」
「来たか」
「一高にも受かったが家が貧乏でな」
「こっちに来たか」
「兵学校は金が出る」
 給与、それがだ。
「だからここに来た」
「そういうことか」
「そうだ、ではこれからな」
「同じ部屋の同期としてな」
「やっていくか」
「そうしていくか」
 二人で話した、俺は今もその時のことを覚えている。
 兵学校は訓練も生活も学業も何もかもが厳しかった、先輩にどれだけ殴られ血を吐きそうな思いもしたか。
 だが俺は耐えた、耐えられたのは俺の力によるものだけではなかった。
 同期の励ましもあった、何よりも貴様がいてくれたからだ。
 先輩に指導を受け殴られた時にだ、一緒にいた貴様が言ったのを覚えているか。
「私にも制裁を」
「何故御前もと言う」
 先輩は貴様に問うた。
「貴様は関係ない筈だ」
「私もその時こいつと共にいました」
 失態を犯した俺の傍にというのだ、このことは事実だった。
「そして同じ失態を犯しました」
「だからか」
「はい、私にもです」
「制裁をというのだな」
「はい」
 そうしてくれと言った。
「お願いします」
「わかった、では貴様も歯を食いしばり足を開け」
 そうしろとだ、先輩は貴様に言った。
「そして目を閉じろ」
「わかりました」 
 貴様は俺と共に殴られた、俺はその後で貴様に言った。
「どうして殴られた、失態を犯したのは俺だ」
「貴様はこの前俺を庇って殴られた」
「だからか」
「それだけではない、俺はあの時貴様を助けられなかった」
 だから俺が失態を犯したというのだ。
「俺も共にしていれば、だからだ」
「貴様も殴られたか」
「そういうことだ、俺も同じだ」
「そうか、わかった」
 俺は貴様の気持ちを理解してこう返した。
「ではな」
「いいか」
「このことは覚えておく」
 そして今も覚えている、俺は貴様がいたからこそ兵学校を卒業出来たと言ってもよかった。そうして軍務に就くとだった。 
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