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歌集「冬寂月」
四十三

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 山藤の

  揺れし夢さへ

    見ぬものを

 いかに想へば

    夢で逢わんや



 故郷では、深い山奥に山藤が咲いていることだろう。
 もう見ることもない山藤…あの幻想的な風景を、夢で見ることさえない…。

 ならば…今一度、あの人の夢を見たいと思っても、一体…どれ程想い続ければ夢で会えるのだろうか…。



 花菖蒲

  残れる月に

   白玉を

 散らすや風の

    侘し朝かな



 朝露の光る花菖蒲…見れば空には有明の月…。

 何とも美しい風景だが、昔を思い出して仕方無い…。

 あの時は…と考えると、自分が老いてゆくのを実感するものだ…。

 風に揺れた花菖蒲から朝露が落ちる…。

 まるで涙を零すような…そんな花菖蒲に、心侘しくなる朝だ…。


 あの人は…どうしていることか…。




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