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それを言っちゃあ
第三章
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「私京都に残るかも知れません」
「このお店での契約の後は」
「はい、それでこの街にです」 
 京都にというのだ。
「ずっと住むかも知れないです」
「いつも契約終わったら一旦東京に戻るのよね」
「葛飾の実家に」
「それで実家もパン屋さんで」
「そこで働きながら次の契約先のお話を受けます」
 大抵は葛飾に帰って一月程度したらその話が来る。
「そしてです」
「そうしてなのね」
「また次のところに行っています」
「そうしてるのに」
「はい、ひょっとしたらです」
「葛飾にも戻らないで」
「京都に残るかも知れないです」
 この店での契約が終わってもというのだ。
「そうなるかも知れないです」
「そうなのね」
「まだはっきり決まってないですけれどね」
 だが智子は告白するつもりだった、契約が満了する直前に。その時は刻一刻と近付いていて宮崎さんに何を買ってプレゼントするのかも考えはじめていた。そしてその時に告白しようとも考えていた。
 だがある夜にだ、そろそろ閉店しようとする時に。
 いつもは朝に来る宮崎さんが店に来た、しかも一緒に若い奇麗な女の人がいた。スーツを真面目に着ていて楚々とした感じだ。
 宮崎さんは智子に明るく挨拶した後でその人に親しく声をかけて色々と話をしていた。カウンターにいる智子はまさかと思っていたが。
 宮崎さんはその智子の目の前で智子を全く見ないでその人にこう言った。
「じゃあ来月そちらのご実家に行くから」
「ええ、お父さんとお母さんに挨拶お願いね」
「わかったよ」
「それを言っちゃあね」
 智子は今回もかと内心思いつつその言葉を受けた、そうして心の中で苦笑いで現実を受け止めたのだった。
 そして今回もと思いながらこの日は後片付けの後で入浴し若狭さん達と一緒に御飯を食べてから寝た、次の日からはまた普通に働いたが。
 契約が満了し葛飾に帰る時にだ、若狭さんは智子に尋ねた。
「結局葛飾に戻るのね」
「はい、京都に残ろうかなとも思いましたが」
「こっちのお店ではなのね」
「お話も今はないですし」
 それでというのだ。
「ですから」
「これでなのね」
「一旦葛飾に戻ります」 
 こう若狭さんそしてご主人に話した。
「そうします」
「そうなのね」
「はい、それじゃあまた」
「ええ、縁があったらね」
「会いましょう」
 智子はご夫婦に笑顔で別れて一旦葛飾に戻った、笑顔で戻ったがそれでもだった。心の中には京都で働き若狭さんご夫婦にもよくしてもらった楽しい思い出と共に失恋のことがあった。だがそれでも失恋のことも含めて笑顔で葛飾に戻って実家で働くのだった。次に別の場所で働くその時を待ちながら。


それを言っちゃあ   完


                    
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