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138部分:ヴァルハラの玉座その十九

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ヴァルハラの玉座その十九

「卿は。誰だ?」
 ジークフリートはモニターに映る彼を見上げて問う。
「ハーゲン」
 彼はまずこう名乗った。
「ハーゲン=フォン=ニーベルング。それが私の名だ」
「ニーベルング」
「私の本来の姓だ。かってはグリムヒルデが姓だった」
「確か。そうだったな」
 ジークフリートは彼に関する記憶を辿りながらそれに応える。
「だが。それは偽りだったのだ」
「それを隠していたのか」
「違う。私はそもそもグリムヒルデ家の者ではなかったのだ」
「どういうことだ?」
「私は。養子だったのだ」
 彼は言った。
「ニーベルング一族からその素性を明かさずにグリムヒルデ家に預けられ育てられた。それが私だったのか」
「そうだったのか」
「だからこそ私の本来の姓はニーベルング。だがそれを知ったのは第四帝国崩壊以後だ」
「それまでは。グリムヒルデとして生きていたのか」
「そうだ。だがそれが変わった」
 彼の低い声からは感情は見られない。ただ無機質に語っているように聞こえた。
「第四帝国の崩壊とクリングゾル様の台頭により。私はその素性を知った」
「ニーベルング一族の素性をか」
「そして私は今の帝国に加わった。だが」
「ここで敗れたな」
「私の完敗だ。これ以上の戦闘は無意味だ」
「では降るのだな」
「いや」
 しかしそれには首を横に振る。
「私は。降らない」
「どういうことだ?」
「将兵達は降る。だが私は」
 彼は言う。
「降ることは許されない。それがニーベルング一族の掟なのだから」
「そうか」
 ジークフリートはまずはその言葉を聞いた。
「では。卿は。どうするのだ?」
「知れたこと」
 彼は懐から銃を取り出した。
「これで。終わらせる」
 それをこみかみに当てる。一瞬のことであった。
「終わらせたか」
「まさかとは思いましたが」
「ハーゲン提督、ニーベルング族として死んだか」
「どうやらそのようで」
「しかしだ」
 ジークフリートには疑問に思えるものがあった。
「あの男、死ぬ程にまでクリングゾル=フォン=ニーベルングに忠誠を誓っていたのだろうか」
「違うとでも?」
「何か引っ掛かるものがあるのだ」
 彼の直感がそれを教えていた。

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