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江戸前寿司
第二章
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「それだ」
「そうだよね」
「飯を馴れ寿司の味にするぞ」
「ああして時間をかけてするんじゃなくてだね」
「炊いた飯をそのままな」
 まさにというのだ。
「馴れ寿司の味にするぞ、そしてな」
「ネタもだね」
「考えていくぞ」
 そちらもというのだ。
「いいな」
「そうだね、じっくりと考えてね」
「作っていくぞ」 
 与兵衛は女房に強い声で言った、そうしてだった。
 その馴れ寿司の代わりになるものを考えていった、まずは何といっても飯であった。馴れ寿司の飯の味は二人共商売道具だけあってよくわかっていた。
 それでだ、その味をどう再現するかだった。
「酢とあとはな」
「何だろうね」
「砂糖か?」
 これではとだ、与兵衛は女房に話した。
「馴れ寿司の甘酸っぱい飯の感じはな」
「長い間置いてのあの味はだね」
「ああ、それはな」
 まさにというのだ。
「あれだろ」
「そうだね、お酢とね」
 女房も亭主の言葉に頷いて話した。
「それだね」
「そうだろ、砂糖だろ」
「あれを使ってね」
「あと塩だ」
 これもというのだ。
「必要だな、それと大事なのはな」
「ああ、それはね」
「熱さだな」
「それだよ、馴れ寿司は熱くないからな」
 このこともよくわかっていた、寿司は熱いものではない。二人共このこともまた非常によくわかっていた。それで与兵衛はこのことも言ったのだ。
「だからな」
「この飯もだね」
「熱くない様にしてな」
 そうしてというのだ。
「団扇とかで仰いで冷ますか」
「そうして作っていくんだね」
「そうしような、そしてな」
「お酢やお砂糖、お塩をそれぞれどれだけ使うか」
「あとどうして飯に入れるか」
「色々やっていかないとね」
「ああ、あの飯の味にはならねえぞ」
 馴れ寿司のそれにだ、こう話してだった。
 二人で飯を作っていった、何度もこれではないという飯になったが数えきれないだけ炊いて混ぜて作ってだった。
 ようやくその飯の味になってだ、与兵衛も女房も言った。
「よし、これだな」
「そうだね」
 夫婦でその飯を口にして言った。
「この飯だよ」
「味も熱さもな」
「馴れ寿司の味だよ」
「これでいい、それじゃあな」
「次はネタだね」
「それだよ、ネタはな」
「どうするかだね」
「馴れ寿司のネタは全体だからな」
「飯と一緒だからね」
「あの味はな」
 それこそと言う与兵衛だった。
「作るには時間がかかる、だからな」
「あれをあのまま使えないね」
「絶対にな、それにな」
「この飯にはね」
 女房はまた今自分達がようやく作り上げた飯を口に入れて味を確かめつつ亭主に話した。
「あのネタよりもね」
「どんなネタがいいと思う?」
「あれじゃないかい?
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