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117部分:イドゥンの杯その二十三
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イドゥンの杯その二十三

「何故だ?」
「我等は確かにニーベルング族も貴殿等も憎い」
「憎いか」
「そうだ。だからあの女も殺した」
 その女がクンドリーであることもすぐにわかった。
「ニーベルングの者だからこそだ」
「では私も同じように」
「しないのだ。何故かわかるか」
 逆にトリスタンに問うてきた。
「確かに貴殿は第四帝国の者達だ」
「だが我等を助けてくれた」
「貴殿等を」
「ミーメの研究に反対していたな」
「うむ」
「そして多くの我が同胞を救い出してくれた。それもまた知っている」
「そうか」
「同胞の命を救ってくれたことは感謝している。それは忘れない」
「だが同時に貴殿は第四帝国の者なのだ」
「ではどうするつもりなのだ?」
「捕らえる」
 リーダーと思われる一際立派な風貌の男が言った。
「そして監禁する」
「そうか」
「ついて来い。だが抵抗したならば」
「わかっている。では行くか」
 こうしてトリスタンは捕らえられ彼等の牢獄へと案内された。そしてその中の一室に入れられたのであった。
「ここだ。入れ」
 そう言われて部屋に入れられる。だがそこは異臭に満ちていた。
「これは・・・・・・」
 それは死臭であった。見れば部屋の端に死体が置かれていた。
 次第に腐敗しようとしていた。腐臭のもとはこれであるのは明らかだった。
「参ったな」
 トリスタンはその屍を見て呟いた。
「このままではこちらがたまったものがない」
 そして一つの判断を下した。
「仕方ない」
 イドゥンを使うことにした。死体にそれをかける。
 腐臭はすぐに消えた。そして死体は瞬く間に回復してきた。
 死体は死体ではなくなっていた。そこには金髪碧眼の美男子がいた。
「ここは・・・・・・」
「目が覚めたか」
 トリスタンはその青年に対して言った。
「卿はここで死んでいたのだ」
「それはわかっている」
「死んだことがわかっていたのか」
「ああ」
 彼はその言葉に応えた。
「はっきりとな。覚えている」
「不思議な話だな」
「あちらでそう言われた」
「あちら?」
「死んだ後の世界でな。色々聞いてきたのだ」
「そうか。では卿は誰なのだ?」
 トリスタンは問うた。
「私か?」
「そうだ。卿は一体何者なのだ?」
「私はローエングリンだ」
 彼は名乗った。
「ローエングリン」
「ローエングリン=フォン=ブラバント。それが私の名だ」
「そうか、卿がか」
「私のことは知っているのか」
「知られた男だからな。かつては第四帝国において艦隊司令官だった」
「うむ」
「そして今は。帝国軍と戦う勢力の一つを率いている」
「よく知っているな」
「私もな。そうだからだ」
「そうか。卿もか」

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