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112部分:イドゥンの杯その十八
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イドゥンの杯その十八

 声も穏やかである。その声で彼に語り掛けているのである。
「わかっていたというのだな」
「それが貴方の運命ですから」
「面白いことを言うな」
 パルジファルとの話を思い出し心の中で笑った。
「運命とは」
「ここにいらしたことを運命と言わずして何と言いましょう」
「では私が最初からここに来ると思っていたのだな」
「はい」
 モニターの彼女は頷く。
「そして来て頂けないと困るところでした」
「困る」
「そうです。私の運命もまた同じなのですから」
 彼女は言った。
「その運命に従い。ここにいるのです」
「私に会う為に」
「すぐにおいで下さい」
 そしてまた言った。
「そして。全てをお話します」
「全てを、か」
「そうです。私はラートボートの氷の大地にいます」
「ここですね」
 部下達はそれを聞いて別のモニターにラートボートの地図を出す。そしてその北極にある帝国軍の基地を指し示した。
「そう、そこです」
 クンドリーはその指し示した場所を見て頷いた。
「私は。そこにいます」
「わかった。では今から行こう」
「はい」
 クンドリーはトリスタンのその言葉を聞き頷く。
「早く・・・・・・来て下さい」
 その声が懇願するようなものになった。
「さもなければ」
「さもなければ」
 それを聞いたトリスタンの眉が動く。
「全てが終わります」
「全てがか」
「少なくとも貴方は自分の運命を、そしてあらゆるものから遠ざかってしまいます」
「来なければならない。そう言いたいのだな」
「その通りです」
「言われるともな」
 だがトリスタンの返事は既にわかっているものであった。
「行く。だから安心するのだ」
「はい」
 それを聞いたクンドリーははじめて微笑んだ。
「では。お待ちしておりますね」
「うん。では待っているがいい」
「はい」
 ローエングリンに続く形でトリスタンもラートボートに降り立った。彼はクンドリーの待つ帝国軍の基地へ向かうのであった。
 基地の周りには敵軍はいなかった。基地の中にもいなかった。
「クンドリーは我々を騙しているわけではないようですな」
「そうだな」
 トリスタンは同行する部下にそう応えた。彼等は今極寒の地の為に装備を身に纏っている。そこは見渡す限りの氷の大地であり周りにはその氷と雪しかなかった。
 彼等はその中を進んだのである。そして今帝国軍の基地の中にいた。
「問題はクンドリーがこの基地の何処にいるかですが」
「おそらくは司令室だ」
「司令室」
「そうだ。彼女はそこから通信を入れていた」
 これは勘であったがおおよそのことがわかっていた。
「だから今も。そこにいる筈だ」
「左様ですか」
「だからそこに行けばいい
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