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憤怒身
第四章

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「それからお湯に入りなさい」
「そうさせてもらうね。けれどね」
「また明日行くのね」
「そうするよ」 
 甲子園に行くと言ってだ、寿は風呂に入った。
 そして次の日は。
 寿は甲子園に行く時にまた千佳に言った。
「いいか、今日はな」
「阪神が勝つのね」
「昨日は不覚を取ったがな」
 それでもというのだ。
「今日は違うからな」
「勝つっていうの」
「ああ、勝つ」
 実際にというのだ。
「ネットで阪神の雄姿を見ていろよ」
「精々そうさせてもらうわ」
「カープの勝利も祝ってやる」
 カープについては寛容な彼だった。
「いいな」
「そこでそう言うのね」
「ああ、巨人じゃないといい」 
 是非にと言ってだ、そしてだった。 
 寿は甲子園に向かった、そうして。
 帰って来てだ、また母に風呂に入れさせられた。だが次の日もまた同じだった。
「今日こそだ」
「ええ、今日こそね」
「阪神は勝つからな」
「その前向きな気持ちは凄いわ」
 冷静に返す妹だった。
「それで今日もなのね」
「観戦するな」
「とりあえず聞くけれど」
 兄に冷めた目で聞いた妹だった。
「よく寝られてる?」
「お陰でな」
 西宮から神戸の端まで自転車で全速力で戻って風呂に入っている、身体を徹底的に使った結果である。
「快眠だよ」
「それはいいことね」
「そして今日もな」
「甲子園に行くのね」
「阪神の勝利をこの目で見てやる」
 是非にと言うのだった。
「その勝利の姿はな」
「私にもなのね」
「ああ、見えるからな」
 こう言うのだった。
「楽しみにしていろよ」
「それじゃあね」
 妹はこう言ってだ、兄を送ったが。
 ここでだ、今度は父に言った。
「ひょっとしてね」
「ああ、阪神か?」
「負けるんじゃないかしら」
「それは言うな」
 父は娘に眉を顰めさせて返した。
「あえてな」
「勿論お兄ちゃんには言ってないわよ」
「それはいいけれどな」
「けれどそれでもなのね」
「ああ、何か言うとな」
 それでというのだ。
「実際になりそうだからな」
「言葉を出すと現実になるから」
「そうだ、言わない方がいいぞ」
「それカープにも言えるけれど」
「阪神は他のチーム以上にそうなるかも知れないだろ」
「そうよね、何か阪神ってね」
 広島ファンの千佳から見てもだ、阪神というチームには不自然にそうした言霊めいたものが縁が深いと思ってだ。
 それでだ、千佳は父に答えた。
「何かが憑いてる感じがするし」
「憑いてるぞ」
 父の返事は兄以上に絶対のものがあった。
「そんなの見てわかるだろ」
「そうなの?」
「甲子園には魔物がいるんだ」
 まずはこの言葉を出した父だった。
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