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越奥街道一軒茶屋
逢魔刻の二人
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で売れるのか、さっぱり理解出来ねぇんですがねえ」

 もう額に手をやるしかねぇです。
 旦那は完全にしらを切って、空を仰いだ。

「おめぇ器量はいいのに場所が悪い。これで町の傍とか、もっと人のいるところで店をやりゃ、女の一人や二人簡単だろうなぁ」

 言葉の終わりにあっしの頬を指でつつく。
 あっしの視線が一層冷たくなるの、多分旦那はわかっててやってるんでしょうなあ。
 器量云々に関しては否定しやせん。自分でどう思おうが、人に言われるのが正しいってことになりやすからね。でもおちょくられてる感じがするのはいただけない。

「あっしはそういうのに興味がねぇんでさぁ。ずっと店をやってりゃいいんですよ」

 そういうと、旦那はあっしのほうに身を乗り出してくる。

「そうは言ってもよ? おめぇ、欲ってのがないわけじゃないだろう? 本当にこのままでいいのか?」

 これには思わず吹き出してしまいやした。旦那、まるで父親みてぇなこと言ってるじゃねえですか。

「あっしは別に……。ここで店やって、偶に来るお客さんと、一日全部みたら一瞬の時間の会話ができればそれでいいんでさぁ。それに――」

「それに?」

「『欲しいなら無欲に』ってぇのがあっしの持論なんですよ。だからあっしのとこにはそれなりの金や物が、向こうからやってくる。旦那だってそうでしょ?」

 あっしは旦那に微笑んで聞きやした。
 旦那はちょっとの間あっしの顔を見てやしたが、感心したように息を吐いた。そして声をあげて笑うんでさぁ。

「おめぇやっぱそういうの見抜くのは得意なんだなぁ。ちげぇねえ。おめぇはやっぱりここでやるのが一番みてぇだな。俗じゃ駄目だ」

 そうして旦那は暫く笑い続けた。それを見てるとこっちもなんだか笑いたくなってきて、結局二人して笑ってたんでさぁ。

 笑う門には福来る、ってことなのかどうかはわかんねぇんですがね、実はこのあと、もう日が暮れるのに二人もお客さんが来てくれたんでさぁ。
 なんだかんだ言って、わかんないから面白いんでしょうなぁ。
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