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越奥街道一軒茶屋
手長の目
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ら始めなきゃいけないんですよ。
 案の定、といったら可哀想かもしれねえが、彼女は悲痛な顔を手で覆いやした。

「心の隅で、そう思っていました。他の人に手すら見せられないなんて、化生と何が違うのかと……」

 彼女だけが何も特別じゃあねえんでさぁ。人なのかバケモノなのかわからなくなってるようなのは、意外とどこにでもいるんですよ。

「それを認めなきゃ、人に戻ることもできねぇんですよ。だから裏を返せば、今のあんたは一寸だけ人に近づいたってことなんでさぁ。あっしにできるのはここまで。あとは自分の力でなんとかするってことになりやす」

 どうやら泣いてるみてえで、覆った手の中から嗚咽が聞こえてやしたね。

「後悔できるんだったら、絶対に成し遂げられる筈でさぁ。御足を洗うってのは、案外簡単なんでねぇ」

 そう言ってる間にも、女はすすり泣きをしっぱなしでしたよ。
 これ以上は野暮なんで、そのまま店の奥に入りやした。

 女は、いつの間にか出立していやした。
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