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遊戯王GX〜鉄砲水の四方山話〜
ターン88 真紅の暴君と紅蓮の災厄
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 どれくらい、じっとしてただろう。ほんの数分だったようにも思えるし、もう何週間か、それどころか1か月近くここでこうしていたような気もする。
 いずれにせよ、僕はどうにか立ち上がった。本音を言えば、まだしばらくはここに居たい。だけど稲石さんは、もうここにはいない。生命ですらない存在に対してこう称することが正しいかはともかく、殺したからだ。他の誰でもない、この僕が。

「あの時と、同じか……」

 誰に向けたものでもない言葉が、先ほどまでのデュエルの衝撃で割れてしまったらしい窓から飛び込んできた風に乗って流れていく。覇王の異世界で出会った、暗黒界の鬼神 ケルト。あの時と同じだ。どうしようもなく周りの状況に流されるまま戦って、その結果として勝ったあげく目の前で消えていくところを見せつけられる。常勝不敗、無双の女王。夢想も自分が望まぬ勝利を重ねるたびに、こんな気持ちを味わってきたのだろうか?
 そこまで考えたところで、稲石さんの最後の告白が再び蘇る。河風夢想は、ダークネスの手駒である、と。気が付けば、歯が折れるんじゃないかと感じるほどに強く歯を食いしばっていた。……何が何だか、やっぱり僕にはわからない。ただ1つわかっていることは、稲石さんはあんな内容の嘘をつくような人じゃないということだ。
 夢想に会いたい。でも、今は夢想に会いたくない。矛盾する2つの思いを抱え込み、僕はまたしてもいつもの手段、目の前の問題から目を逸らすことにした。その場を離れて当初の目的、賢者の石の回収に向かったのだ。そうやって目を背け続けた結果稲石さんにこの手でとどめを刺すことになったというのに、結局僕は何も変わっていない。賢者の石の方も一刻を争う問題だから、それにPDFを稲石さんに壊された現状夢想に連絡を取る手段はない……それはすべて、もっともらしく聞こえる言い訳でしかない。そんなの、自分が一番よくわかっているはずなのに。
 外の光も差し込まない、暗い階段を降りる。確か2年前に来たときは、この先にアムナエルの研究室があったはずだ。案の定たどり着いたその一室は、2年分のほこりが積もっていることを除けばまさに僕の記憶のままの部屋だった。その上に、真新しい猫の足跡が点々と続いている。

「……大徳寺先生!ファラオ!」
『やあ、ようやく来たのかニャ。さあファラオ、いい子だからそれを渡しておくれ』

 あれだけのデュエルの間一向に戻ってこないと思ったら、どうやら大徳寺先生が先に準備を済ませておいてくれたらしい。どっしりと歩くファラオが中身のぎっしりと詰まった小袋をくわえて僕の足元までやってきて、おもむろにそれを床に落とす。慌てて拾い上げると、見た目よりもずっと重い手ごたえが返ってきた。

「じゃあ、これが……」
『昔私が作った、試作品の賢者の石だニャ。私とファラオのことは
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