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霊群の杜
両面宿儺
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―――桜の頃はまだ、遠いのだろうか。
遅咲きだった今年の梅が散り初めた3月の始め、俺は薄い蒼天を見上げていた。この街の端を掠めるように流れる川は、今日も穏やかな川面に空を映す。…まだ、雲が薄い。桜は当分先だな…そう呟いて、俺は小さく息をついた。


―――奉を殴り、玉群神社に『出禁』を食らって2週間。


物心ついてこのかた、俺がこんなに長い間、玉群神社に出入りしないことなどなかった。
『桜が咲く頃まで、ここには来るな』
あれは即ち、俺が殴った事が生理的にも『無かったこと』になるまでの、おおよその期間なのだろう。結構思いっきり入れたので、完治に2〜3週間は掛かるだろうし。縁ちゃんにも、奉の母さんにも喧嘩かと思われて心配されたが、殴った俺が云うのも何だが俺達の間に、感情的なわだかまりは不思議な位に、ない。出禁の件も、ああ、呪いの発動を心配してくれたのだな、としか思っていない。俺が思っていた以上に、俺達は『通じ合っている』のだろうか。
一度、呪いをガチで喰らっている鴫崎は俺達の事情を何となく察しているのか、SOSを出してこない。偶にLINEで愚痴を寄越してくるので、奉のAmazon利用ペースは変わっていないようなのだが。
「その怪我も、もうちょっとかかりそうだな」
缶コーヒーを呷り終えた今泉が、その缶を両手で包み込んだ。
午前中の講義を終えて昼までのほんの短い時間、俺達は何となく、この河原までぶらぶらと歩いて来ていた。…今泉はこのあと、仲間とランチらしい。俺も誘われたが断った。少し前までは無理をしてでも誘いを受けていたのだが、『とある件』で今泉が人の心を読むことに非常に長けている事を知って以来、一切の無理をやめた。
「……あまり良くない、怪我なんだろ」
「……まあな」
今泉はそれ以上、何も聞かなかった。
出禁を食らって以来、今泉は何故か妙に俺を気にかけてくれる。最初は俺達の事情など知らなかった筈なのに。今もこうして、ランチまでの短い時間だが俺の為に裂いてくれている。
「なんかさぁ、妙に懐かしくて仕方ないんだよなー。おかしいんだけど」
「何がだ、もしくは何処がだ」
相変らず今泉の言葉には主語がない。…特殊な『共感覚』で人の感情にダイレクトに触れることが出来るからだろうか、この男はコミュニケーションツールとしての『言葉』を軽視し過ぎるところがある。
「あ、そっか。…玉群神社がだよ」
「………ふぅん」
今泉を含む『彼ら』に、恐れていた変化が起こっている。
奉のせい…と云い切ってしまうと気の毒かもしれないがほぼ奉のせいで、俺や今泉を含む奉の周りの人間が、産土神の保護を外されて『玉群神社』の帰属になってしまったのだ。結果、何故か彼らは玉群神社に足しげく通わなければ気が済まない厄介な性質を身に着けてしまった。…この事を知ってい
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