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儚き想い、されど永遠の想い
46部分:第四話 はじまりその十

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第四話 はじまりその十

「ですが私は」
「ロミオではないね」
「相手はもう決まっていますし」
 その婚約者のことだ。
「波風はありませんし」
「あの様にだね」
「はい、ありません」
 それはないというのだった。
「ですから。現実としては完全には話せませんが」
「いや、それでも」
「御役に立てていますか?」
「充分だよ。そうだね」
 納得した顔で言う義正だった。それが常だった。
 そうした話の中でだった。彼はだ。
 決意しだしていた。それは。
「僕は。今の気持ちを大事にしたいね」
「大事にですか」
「そう。そして」
 佐藤の顔を見てだ。言ったのである。
「応援してくれるんだね」
「無論です」
 微笑んで答える佐藤だった。
「それは」
「そうしてくれるんだね」
「また言いますが」
 こう前置きしてだ。佐藤は話すのだった。
「今の時代に。ロミオとジュリエットもありませんし」
「大正のこの時代に」
「家同士の対立や家柄なぞ」
 そういったものをだ。昔のことと認識しているからこその言葉だった。
「それが恋愛の妨げになるなぞ」
「そう考えるんだね」
「あの舞台にしてもです」
 そのロミオとジュリエットのことだ。
「あの二人が結ばれれば。対立は」
「消えたね」
「確かに血は流れました」
 それは舞台で実際にありだ。二人の仲を余計に難しくしている。
 しかし佐藤はここではそれは大したことではないと言うのだった。
「ですがそれでもです」
「あの二人が結ばれればだね」
「対立はなくなっていました」
「それこそがあの舞台の」
「結末であるべきでした」
 こう話すのだった。
「本来はです」
「そう、本来はね」
「人は幸せにならなければならないのですかな」
「だからこそ」
「はい、だからこそ」
 それでだというのである。
「本当にそう思います」
「じゃあいいかな」
 義正はその佐藤の言葉についてだ。さらに問うのだった。
「若しもだよ」
「若しもですか」
「うん、若しも」
 ここで自分のことを言いそうになった。しかしだ。
 それではわかってしまうと思ってだ。彼はそれを隠してだ。
 あらためてだ。こう彼に話した。
「若しそういう人がいたら」
「答えは一つです」
「幸せにならないと駄目だね」
「対立や因果なぞ」
 そうしたものはだ。どうしたものかというのだ。
「そんなものは愛の前にはです」
「どうしたものでもないんだね」
「愛が最も尊いものです」
 佐藤の言葉が熱いものになる。

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