二章 ペンフィールドのホムンクルス
13話 望月麗(5)
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福岡県高梨市に隣接する上空にきた時、優は息をのんだ。
眼下を自然のものとは到底思えない紫色の霧が覆い尽くしている。
過去に白流島の写真は見た事があった。日本海に浮かぶ小さな島が、謎の霧に包み込まれている空撮写真だ。
本土に同様の巨大な霧が広がっているのは、想像していたより遥かに衝撃的な光景だった。
侵略されている事実を受け入れざるを得なかった。
そして、上空にポツンと佇む異様な影。
人の形をした何かが、高梨市の占領を誇示するように上空200メートルほどで静止している。
『なんですか、あれ?』
誰かの呟きをマイクが拾う。
全員がその異様な姿に圧倒されていた。
その亡霊は、人の形をしながらも巨大な頭部と手を有していた。
反対に、胴体部や足は小さくバランスが悪い。
どこか宇宙人を連想させるようなフォルムだった。
『視認出来る亡霊は情報通り一体です。体高は三メートルから四メートルほど。また対象に動き見られません』
第六小隊長の白崎凛が淡々と報告をあげる。
機動ヘリが優たち中隊を追い越して、亡霊を撮影するように近づいていく。
しかし、亡霊は接近する機動ヘリに対して反応を見せず、ただ浮遊しているだけだ。
『ペンフィールドのホムンクルスに酷似しているわね』
『顔までそっくりです。模倣しているとしか思えない』
奈々の声に同意する白崎凛の声。
『ペン……何とかのホムンクルスって何ですか?』
第三小隊長の詩織の声に、奈々が答える。
『脳機能局在論という、人の脳は部分ごとに違う機能を持っているという学説があるの。例えば、ある脳の部分は手の機能を司っている、みたいにね。そして、その脳の領域の大きさは、対応している体の領域から来る体性感覚の入力量や重要度のそれに比例する。ペンフィールドのホムンクルスはそれを三次元的に表現した学術的な人形で、あの亡霊はどうもそれに酷似している』
説明を聞いても、いまいちピンと来なかった。
優は小銃の光学照準器を覗いて、異形の亡霊をじっくりと眺めた。
口の部分が大きく飛び出し、逆に頭頂部の付近は小さくなっている。腕や胴体は今にも折れそうなくらい細く、栄養失調の子供のようだ。しかし、手はそれには釣り合わないほど大きく、その巨大な頭さえも鷲掴みできるほどだった。
奈々の言葉を信じれば、人の口の部分と手の部分は入力量、そして重要度が大きいということだろうか。そして、胴体部などは情報の入力量が小さいと解釈できる。
『何だか、気持ち悪い形ですね』
詩織の声。
暗くて周囲の中隊員の表情が見えないが、全員が似たような感想を抱いているようだった。
優自身もこの亡霊に対して、強い生理的嫌悪を感じていた。
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