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Raison d'etre
二章 ペンフィールドのホムンクルス
9話 篠原華(3)
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相応の包容力のある笑みだった。
 華はたまに酷く大人びて見える事がある。
 まだ十六歳なのに第一小隊のリーダーとして選ばれた理由が垣間見えた気がした。
「華ちゃんは、ここに来てどれくらい経つの?」
「私? 三年くらい……かな」
 三年。
 彼女が先程語った特別年金の給付条件をクリアしているという事だ。
 それでも中隊を抜けないのは、やはり帰るべき場所がないからなのだろう。
「あ、冷めちゃうよ」
 暗くなった雰囲気を払うように華が手元の朝食セットを見る。
「……そうだね。食べないと」
 箸を伸ばしながら、ふと考える。
 これから会う予定の望月麗も、恐らくは帰るべき場所を持たないのだろう。きっと、中隊が最後の居場所なのだ。
 彼女とどういう関係になるかまだ分からないが、不誠実な対応はするべきではないし、居づらくなるような対応はしないように気をつけなければ、と気を引き締める。
「あ、お迎えの人、来てるよ」
 華の声に釣られて、食堂の出入り口に目を向けるとスーツ姿の大男が立っていた。送迎を担当する保安部の者だった。亡霊対策室は山奥にある為、街までの移動手段は車しかなく、こうして送迎してもらう必要がある。
「もう行かないと。ごちそうさま。またね」
「うん。行ってらっしゃい」
 華に見送られて、大男の元へ向かう。 
 大男は不器用そうな笑みを浮かべて、小さく会釈した。
「送迎を担当する保安部の中村(なかむら)と申します。では参りましょうか」
「はい。お願いします」
 ペコりと頭を下げて、中村と名乗った大男と共に食堂を後にする。
 巨体の中村が目立つせいか、エントランスですれ違った中隊員からまじまじと視線が投げかけられる。
「桜井くん今からデート? 頑張れー」
 中隊員の誰かがからかう声。
 優は苦笑して軽く手を振ってから、外に出た。
 空は青く、よく晴れている。
 エントランス前には既に黒塗りの乗用車が回されていた。
「では行きましょう」
 中村がドアを開ける。
 その時、彼の腰に大型の自動拳銃がついているのが見えた。
 どうやら広瀬理沙の件を受けて、送迎よりも護衛にウェイトがずれたようだった。
「どうしましたか?」
 中村が怪訝そうに問いかけてくる。
「いえ、高そうな車だったので躊躇しちゃって」
 優は愛想笑いを浮かべて、車に乗り込んだ。
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