二章 ペンフィールドのホムンクルス
3話 姫野雪
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重い金属製の扉を開けると、眩い光とともに心地良い風が吹いた。思わず目を細める。少し肌寒かった。
桜井優は亡霊対策の寮棟にある屋上に来ていた。この頃はよくここに足を運ぶ。亡霊対策室の中では比較的静かで落ち着ける数少ない場所だった。
扉が重い音を立てて閉まる。その時、思わぬところから声があがった。
「こんにちは、桜井くん」
驚いて声のした方向に目を向ける。そこにはフェンスにもたれかかるように、第二小隊長の姫野雪が立っていた。
「あ、こんにちは」
「風に当たりにきたの?」
小さく頭を下げる優に、雪がゆっくりと近づいてくる。
「それとも……なにか悩みごと?」
「えーと、外の空気を吸いに……」
「嘘」
雪は優の目の前で立ち止まり、顔を覗きこむように腰を曲げた。
顔の距離が五十センチほどまで縮まる。優は思わず後ずさりそうになった。
雪とは訓練時に少しだけ事務的な話をしたことがあるくらいだ。慣れない彼女の雰囲気に呑まれかけていた。
「う、嘘ってどういう意味ですか?」
「あなたは悩みがあってここにきた。広瀬理沙の事が心配なんでしょう?」
とくん、と心臓が跳ねた。
あれを知っているのは自衛軍と奈々、それに情報部の一部だけのはずだ。
優は警戒するように雪を見た。
雪は薄い笑みを浮かべたまま表情を崩さない。優の反応を見て楽しんでいるようだった。
彼女の優しい眼差しが、じっとりと優を射抜く。
大人びた憂いを帯びた淡紅色の瞳。そこに、光を反射する銀色の髪がひらりと重なる。
今まで赤い瞳はカラーコンタクトだと思っていたが、間近で見ると本物だとわかった。
誰かが雪の事をアルビノだと言っていた気がする。先天的な遺伝子疾患が原因である、と。
――あの人はさ、多分、あんまり身体が良くないんじゃないかな。日光に弱いし、視力も低いはずだよ。本来、小隊長には向いてないかもしれない。
そう評したのは、確か第四小隊長の舞だったか。
「あ、あのっ、日光を浴びるとまずいんじゃ……?」
広瀬理沙の話題を逸らそうと試みる。
しかし、雪は優しい微笑みを浮かべてそれを受け流した。
「ええ。でも、今はそういうお薬があるの」
「そ、そうなんですか――わっ」
不意に雪の手が優の頬にのびた。
突然のことに固まる。
雪の淡紅色の瞳が優を瞳を射ぬいた。
まるで頭の中を覗かれるような奇妙な錯覚に陥る。
優は咄嗟に目を逸らせそうになって、意識的に耐えた。
「あなたはアルビノじゃないのね」
「――え?」
思わぬ言葉に、気の抜けた言葉がもれる。
雪の手が頬から名残惜しそうに離れる。
そして、彼女は再び微笑を浮かべた。
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