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Raison d'etre
一章 救世主
10話 宮城愛
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周りをキョロキョロと見渡しながら優が言う。ソファの上で紙コップを握った舞がニヤニヤと笑った。
「まあ、とにかく座って。ちょっと聞きたい事があるから」
「聞きたい事って、なんですか?」
 言われるがままに優がソファに腰をおろすと、舞がぐいと顔を近づけてくる。
「最近、しおりんと仲が良いって聞いたけど、何かあったの?」
「え?」
 予想外の問いに、優は小首を傾げた。
「しおりんって、誰ですか?」
「第三小隊長の佐藤詩織。朝にさ、わざわざしおりんが同席してきたんでしょ?」
 舞が楽しそうに言う。優は舞の言っている事が理解できなくて、何度か目を瞬いた。
「食事だけなら、篠原さんとか長谷川さんとも同席した事あります」
 優の言葉に、京子が何かに気付いたような顔をする。
「あ、桜井って知らないんだっけ」
「何が?」
 尋ねると、京子の代わりに華が口を開いた。
「詩織ちゃんね、軽い男性恐怖症みたいなんだって」
 優は驚いて、華の言葉を反芻した。
「男性恐怖症?」
「そう。だから、しおりんが自分から男の子に近づくのって珍しいなって話になってたわけ」
 舞がからかうように言う。
 優は詩織の今までの行動を思いだして、一人納得した。そして、小さな不安を覚える。
「知らないうちに嫌な思いさせちゃってたかも……」
「まあまあ。あまり気にし過ぎると逆効果なんじゃない?」
「そうそう。ただ、お触りはなしの方向で」
 京子の言葉に舞が同意しながらからかうように言う。
 それはそうかも、と考えながら優は先程から一言も発さない愛に視線を向けた。
 愛は無表情のまま、紙コップに口をつけて話をじっと聞き続けている。本当に静かな女の子だ。騒がしい舞や京子を見て、ある意味バランスが取れてるな、思う。
「そういえば――」
 舞がまた何か楽しそうに口を開く。
 談話室の照明が落ちるのは、随分と遅くなりそうだった。

◇◆◇

 上田孝義(うえだ たかよし)陸上中将は暗い室内で淡い輝きを放つディスプレイを見て、ため息を吐いた。
 一つは、特殊戦術中隊から、一人が異常な瞬間最大ESPエネルギー量を記録したという知らせ。上田中将が求めるのは特殊戦術中隊というシステム化された戦力であり、突出した個人的能力などは求めていなかった。
 もう一つ、上田中将を悩ます出来事は、各国のパワーバランスの激変を知らせる戦略情報局からの知らせだ。欧州に於いて、急進的ポピュリズムの機運が高まりつつある。近い将来、レイシズムの嵐へと転化する可能性が高い。それは、低迷する欧州経済に致命的な亀裂を生みだすだろう。欧州の力が弱まれば、ユーラシア連合がますます増長してしまう。彼らの帝国主義は本物だ。そして、彼ら
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