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Raison d'etre
一章 救世主
6話 佐藤詩織(2)
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プリン持ってきたんです。皆に配ってるのかな」
「神条司令の親戚さんがやってるお店のものらしいよ。商売上手だよね」
 そう言って、二人して苦笑する。
 その時、詩織の個人端末から小さなアラームが鳴った。訓練の知らせだ。詩織が慌てて立ち上がる。
「あ、あのっ」
「ん?」
「プリンありがとうございましたっ!」
「どういたしまして。いってらっしゃい」
 気を付けてね。そう付け加えると、詩織は大袈裟な動作で頷き、慌ただしく部屋を出ていった。
 部屋に静寂が戻る。
「……結局何だったんだろう」
 もしかしたら、他に用はなく、ただお見舞いにきてくれただけだったのかもしれない。
 何故かどっと疲れた。優はそのままベッドに倒れこんだ。

◇◆◇

 佐藤詩織は医務室から飛び出すと、近くの壁にもたれかかった。
 全身が不自然に熱い。恐らく、自分は今耳まで真っ赤になっていることだろう。
 深呼吸して、気分を落ち着かせる。
 先の戦いで落下する優を最後に拾った時、不思議と拒否反応が出なかった。もしかしたら、と思って試しに来たのだが、会った瞬間頭が真っ白になってしまった。
 やはり、あれは命がかかった特殊な状況に起因していたのだろう。自分の男性恐怖症はまだ治っていない。
 普段から男性と一切関わり合いを持たない詩織にとって、優との会話は新鮮なものだった。異様に緊張して身体が固くなってしまったが、嫌悪感は感じなかった。少しずつマシにはなっているのかもしれない。
 ただ、それは恐らく優の容姿のせいでもあるだろう。はじめて間近で見た優は想像以上に小柄で、触れれば壊れてしまうんじゃないかと危惧してしまうような儚さがあった。
 たぶん、あれは年下趣味の人からしたら理想の相手ではないだろうか。整ったまだ幼い顔つきは優しく、性を感じさせない。無邪気な子どもという風だった。
 思い出すと、再び顔が熱くなってくる。
 詩織は妙な思考を追い払おうと顔を振り、誤魔化すように訓練室目指して駆け出した。
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