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Raison d'etre
一章 救世主
4話 佐藤詩織
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撃が意味をなさない事を悟った。
 迫りくる亡霊を振り払う事に集中し、機械翼へのESPエネルギーの供給量を増大させる。夜風が耳元で轟音を立て、通信機の向こうから届く誰かの声を掻き消していく。急加速のせいか、酷い頭痛がした。
 チラリと、後ろを振り返る。数十体の亡霊が後ろに張り付いているのが見えた。完全に振り払う事は難しいかもしれない。そう考えて、旋回際に背後へ何発かの銃撃を加える。その全てが亡霊に着弾するのが視界の隅に映った。射撃訓練の時とは比べ物にならない命中率に微かな驚きを覚えながら、何度も銃撃を加える。
 不思議な感覚だった。まだ二回目の実戦であるにも関わらず、次にどう動けば良いのか、どこを狙えば良いのか直観的に掴む事ができた。頭の中は冷え切っていて、恐怖や混乱はない。優は何度も旋回を繰り返しながら、亡霊に銃撃を加え続けた。
 何度目かの旋回を開始した時、不意に激痛が全身に走った。口から苦悶の呻き声が漏れる。
 視界に、鮮血が撒き散らされる。それで、被弾した事を悟った。全身から急速に力が抜け落ち、ESPエネルギーのコントロールが困難になり、身体がきりもみする。それでも、恐怖は覚えなかった。
『華っ! 援護を!」
 奈々の悲鳴じみた声とともに優は鮮血を撒き散らせながら、漆黒の海に向かってゆっくりと落下を始めた。
その時、下方から迫りくる亡霊と目が合う。血のような、真っ赤な双眸。
 優は最後の力を振り絞って、小銃を亡霊に向けた。銃声が響く。それを最後に、桜井優は意識を失った。

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