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提督はただ一度唱和する
遠い彼の地
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 いかにも高級車という外見を備えた黒塗りの車に乗り込む前に、駒城保胤は自分が訪れた場所を振り返らずにはいられなかった。
 人類反攻の魁。国内最大級の軍事拠点。日本海軍横須賀鎮守府。
 どれだけ言葉を飾っても、高いフェンスに区切られたそこは隔離施設にしか思えず、全国に溢れた瓦礫の最終処分場という砂上の楼閣に過ぎなかった。
 かつての海岸線から大きく飛び出すように作られたそれは、艦娘という存在を日本の国土から遠ざけようという、ある種の意思表明だ。国内で最も安全であるはずの周囲は、実に見通しのよい空虚な空き地が拡がっている。遥かに見える市街地と鎮守府を結ぶのは、物々しく整えられた軍用道路だ。
 保胤の見慣れた日本ではない。
 自分の目で確かめ、話を聞き、理解した内情は想像を超える。場当たり的な対処の代償であろうが、ではそもそも万全を待つことが許されただろうか。脅威である深海棲艦も頼るべき艦娘も、それが何であるか未だに答えは出ないのだ。妖精さんに至っては、形而上に存在するのだと言い聞かせる他ない。そのような者たちと戦い、運用していく方法など、現在に生きる保胤ですら容易く論じることは出来なかった。施策の不備というよりも、信用の欠如こそが問題の根本だからだ。
 彼女らが人外の存在であることは、この際関係ない。深海棲艦が脅威であることに疑いはなかったし、艦娘に頼らないという自由は存在しなかった。
 問題は、まったく同じ条件で行った結果が、まったく別の現象を引き起こすような摩訶不思議を前提として、どのように国家や軍を運営して行けばいいのかということだ。規格ではなく、人格で揃えられた性能を、統一的に管理する方法などない。では、人格のない装備が利用できるかといえば、開発よりもコメントの難しいぬいぐるみの作成を優先する、妖精さんとの対決が避けられない。軍備を整えるという戦略の基礎段階でこうなのだ。
 日本が偶然によって守られていたのだと知った時には、衝撃のあまり気を失いかけた。
 この上、既存の技術全般が否定されたとあれば、現場の裁量を最大化して情報の蓄積を待つ以外の方策があろうか。国民が農奴に堕ちるほど追い詰められた状況で、国民から憎まれる以上の支援など、与えられるはずもないではないか。このがらんどうの光景は、提督と艦娘を守るためのものなのだ。
 だからといって、このままでは滅びる。それもまた、間違いない。
 妖精さんに関してはともかく、形而下にある深海棲艦や艦娘は、理解出来ないとしても受け入れることは可能なはずだ。少なくとも、もはや未知ではないのだ。これからは、国家を形成する要素の一つとして考慮すべきである。
 そのためにも、海軍の有り様は抜本的に見直す必要があるだろう。陸軍も政府も無関係ではいられない。いや、もはや誰も無関係のままではいられないのだ。
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