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提督はただ一度唱和する
詭道なればなり
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曇天の中へ。世界で最も正確、確実な配送は、かつてより受け継がれる日本のお家芸である。
 千島列島より発進した航空隊に深海棲艦が空を振り仰げば、足元から無航跡の死神が迫る。艦船の高さを持ち得ない彼女らが空からの目を失えば、世界最強の魚雷はまさに当時求められた通りの戦果を約束するのだ。それはかつての屈辱を晴らすかのような全弾命中。水柱に呑み込まれてしまえば、戦艦すら姿を消す。悲鳴も怒号も、怨嗟ですら海の底へ。
 生き残り、文字通り浮き足立つ彼女らの頭上には、既に爆撃態勢の荒鷲共がいた。身を捨ててこそを体現する、直角の急降下。波は不規則に乱れて、深海棲艦といえども姿勢を維持できない。当然、重い艤装を持ち上げ、構えることも。迎撃など出来るわけもなく、した所で意味もない。投下された爆弾が意識を貫いて、白熱する。
 護衛の戦闘機が、暇そうに旋回していた。
 回避、迎撃、防御、攻撃、発艦、索敵。何をすればではなく、全てを同時に行わなければならない。乱戦とはまさにそれで、それこそが横須賀の真骨頂。波間に紛れて浸透した少女たちが、笑顔を浮かべて全てを砕く。砲を突きつけ、艤装の隙間にねじ込み、発砲。海面に油が広がり、鉄片が飛沫を上げる。生きていても死んでいても、どうでもいい。辺りは喰い放題の散らかし放題。選ぶ手間すら惜しいほど。
 作戦は完全に成功したかに思われた。
 巨大な円の外縁を切り取るように進む一二〇名の艦娘たちは、混乱のまま散発的に行われる反撃をあしらい、陣を突破しようとしていた。乱戦を抜ければ、その後は一〇〇倍もの敵との追撃戦が待っている。損害を与えたことは確かだろうが、所詮は水雷屋。足を頼みに逃げる他ない。そのまま輪形陣を維持するならよし。分派するなら各個撃破していく算段は付けている。
 だが、おかしい。違和感がある。どうにも緩いのだ。軽巡の外郭を破っても、内側は戦艦。取り回しに難があるとはいえ、その一撃は横須賀にとって致命の一打だ。にもかかわらず、中破、小破はあれど、大破、轟沈の報告はない。望んで作り出したはずの状況が、意図しない形で有利な方向へ押し流されていく。
 躊躇い、足を止めれば待っているのは死。しかし、進んだ先に待っているのは果たして勝利なのか。積み重ねた経験が警鐘を鳴らす。そういえば、深海棲艦の艦載機が見当たらない。この期に及んで、何故飛ばさない。いや、まさか。
「神通さん。どうやら、見逃されているようです」
 僚艦の声にはっと、周りを見渡す。こちらに砲を向けている深海棲艦は僅か。他は脇目も振らず、横須賀の後方へ。乱戦の中で、全体が見えていなかった。むしろ、騙された。混乱ではなく、足止めでもない。あしらわれたのはこちらだ。
「綾波さん!! 第二の叢雲さんへ連絡を!! すぐさま、全力で出撃するように!! 曙さんは、千島の龍驤に!!
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