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提督はただ一度唱和する
回り道の風景
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 二〇〇〇個艦隊の深海棲艦。この知らせを受けて、旭川は直ちにオホーツク沿岸への展開を決めた。守原大将着任、三時間前の出来事である。これによって、半ば守原大将の統制下から抜け出すことに成功した。この意味は大きい。
 海上戦力としてみれば、深海棲艦の撃退は不可能である。唯一、海上で対抗可能な艦娘が、一五個艦隊しか存在しないからだ。横須賀より派遣されている水雷戦隊や、軽空母部隊と合わせても、五〇を越えることはない。
 しかし、地上戦力として見た場合、たかだか一個師団の砲兵集団である。確かに北海道の一部地域を確保することは、一時的になら可能だろう。だが、取り返すことは難しくない。既に一度戦場となり、深海棲艦の略奪に晒されたばかりの無人の荒野であれば、遠慮も無用であった。
 それでも、上層部は混乱した。
 問題は完全に国内事情に求められる。北海道が重要な食糧生産拠点であり、守原の権益を支える土地であることが、様々な思惑を呼んだ。
 守原と政府の一部は、どうにかして太平洋側を戦場にしたい。
 釧路平原は日本全国で有り余る瓦礫を活用して埋め立てられた、広大な農作地である。これを維持するのは、釧路川、新釧路川を囲む堤防だ。多数の支流と湧水を束ね、釧路の水利を支えている。
 これを失えば、釧路は再び湿原へと後戻りだ。深海棲艦にとっては棲みやすい環境であるため、上陸を許せばそのように活動する公算は高い。
 翻って、オホーツク沿岸の水利を支えているのは、複数のダムである。幸いなことに、今は無事であるこれらが破壊された場合、現在の日本では再建にどれ程の年月がかかるか分からない。場合によっては、再建そのものを諦めざるを得ない程の被害が生じる恐れがあった。
 また、再建出来たとしても、それは守原の権益に国が嘴を突っ込む余地を与えることになる。守原大将としては、釧路を生贄に捧げる他に選択肢が存在しないのだった。
 しかし、軍事的な側面から見れば、深海棲艦には是非ともオホーツク沿岸に上陸してもらいたいのだ。
 まず、千島列島を利用することで、上陸前の漸減作戦が容易なこと。
 しばらく待てば、流氷が海上を封鎖するため、こちらが戦力を展開するまでもなく、深海棲艦の弱体化が見込めること。
 釧路に比べれば、深海棲艦が展開するであろう平野部から山間部までの距離が短く、陸軍部隊の安全が確保しやすいことなど、特に陸軍にとっては都合のよい地理的条件が整っていた。
 また、農地としては釧路の方が生産量も多く、漁業拠点としても優先したいところである。
 どちらの構想を採用するにしても、鍵となるのは横須賀だ。千島列島を利用するにしろ、しないにしろ、危険を冒すのは横須賀を中心とした部隊だからだ。
 小笠原で迎撃に励む横須賀は、現状、どの部隊も提督不在のまま回している。首都防衛を担
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