第206話 終わる恋、始まる戦い
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「りゅ、龍太様……! いつお目覚めに……!?」
「……ついさっき、かな。先輩のご両親、ご機嫌だったよ」
「そう……ですか。ともあれ、無事に回復されたようで、何よりざます。鮎美さんが三日三晩付いていてくださったおかげですわ」
「鮎美先生か……そうだな。明日には改めてお礼言っとかないと」
「ええ……きっと、その方が先生もお喜びになりますわね」
俺の回復を確認した先輩は、ほっと胸を撫で下ろした様子でこちらを見ていた。……が、その視線は徐々に俺から離れて行き、ついには首ごと明後日の方向へ向いてしまう。
「なぁ、先輩――」
「――あ、その浴衣いかがざますか? ワタクシが仕立てましたのよ」
「ん? あ、ああ。やっぱり先輩が作ったのかコレ。動きやすいし涼しいし、気に入ってるよ」
「ふふ、それは何よりでしてよ」
何かと器用なところもある彼女だが、本音が絡むとぶきっちょになってしまうらしい。俺と話すことを、避けたがっている――正確には、俺に何かを言われることを避けようとしているのが、丸わかりだ。
今なら、その苦しみも少しはわかる。俺だって矢村に振られるとわかってしまったら、向こうの口からその旨を伝えられることを怖がってしまうはずだ。
――それでも、言わなきゃならない。言葉を濁して、傷口を広げるほど、残酷な話もないだろう。
「……先輩」
「……はい」
面と向かって言うには、今しかないだろう。これで先輩に嫌われてますます敵対することになったとしても、俺は受け入れて見せる。
けじめを付ける。そう、約束したものな。
「俺は――矢村が好きだ。あいつに、国が滅んだなんて悲しい報せを聞かせたくはない。そのためにも……俺は先輩にどう言われても、この戦いから逃げ出すわけには行かないんだ」
「……」
「だから。先輩の気持ちには、応えられない。すまん」
――沈黙。
その一言に尽きる静寂が、月明かりに照らされた俺達を包みこむ。月光の青い輝きの中で、光を浴びた先輩の頬を雫が伝っていた。
……分かり切っていたことだ。今更、動じるようなことじゃない。それに戦いが終わるまで先延ばしにしておくのも、卑怯だしな。
先輩は何も言わずただ静かに――そして微かに。縋るような想いを滲ませた瞳で、俺を見つめていた。その瞳に、こちらも真剣な眼差しを全身全霊を込めて叩き込む。
その涙も、眼も、全ては彼女の真摯な気持ちゆえ。だから――せめて俺も、その想いには正面から応えなくては。
「……ねぇ」
永遠のような静寂を経て、ようやく彼女が口を開いた時。月を見上げるその横顔は、幼い頃のような幼気な色を湛えていた。
この言葉遣いも――
「りゅーたん、覚えてる?」
――昔のようだった。
「小さ
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