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フルメタル・アクションヒーローズ
第162話 女性、それ即ち恐怖の権化なり
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断して俺を見てから、再び本を開いているこの少女。

 その名は、四郷鮎子(しごうあゆこ)。俺達の一個下の後輩として、一年前に転校してきた無口な娘だ。姉と二人で、救芽井エレクトロニクスの開発部に協力している天才少女、という意外な一面も持ち合わせている。

 流水を彷彿させる水色の長髪を、一束に括り右側に垂らしている髪型と、真紅の眼。雪のように白く艶やかな肌に、黒い丸渕眼鏡。矢村以上に幼い体つきと、人形のような端正なる顔立ち。
 その普通の少女とは掛け離れた外見と、冷たい鉄のような無表情の相乗効果により、彼女という存在はこの空間の中に於いて強烈な異彩を放っている。

 だが俺達は、この鉄仮面のように固い表情の奥にある、友達思いな気持ちの存在を知っている。ゆえに彼女を恐れることも、避けることもないのだ。

 ――だからといって、いきなり「えっち」などという人聞きの悪い言い方をされるのは心外だ。俺はただエロゲーを嗜む変態なだけだというのに。

 なお、余談になるが彼女は正確には「少女」ではない。戸籍上や外見こそ十代の少女そのものだが、実年齢は二十六歳に達している。
 この容赦のないオーラも、年の功によるものなのかも知れない。

「……女性の年齢に触れるのも禁止……」
「触れてない! 口にすら出してない! ――だいたい、さっきから四郷先生は何を読んでいらっしゃるんだ?」
「……そういう詮索も控えるべき……」

 とは言え、このまま言われっぱなしなのも辛い。俺は彼女の読心攻撃を回避するべく、話題のすり替えを敢行する――が、なぜかそれすらも咎められてしまった。
 だが、小さな背中で本を隠す仕種や、桃色に染められた頬を見てしまうと、どうしても知りたくなってしまうな。いたずら心を刺激されているのかも知れない。

「ふっふっふ。そう言われるとますます知りたくなってしまうのが男の性! ……そぉい!」
「あっ……!」

 俺は彼女の細い肩に手を置くと、ぐいっとこちらに引っ張りながら顔を突っ込んでいく。彼女の肩から、本を覗き込むような格好だ。

「んッ! あ、ふぁあ、ああぁっ……! 龍太先輩、ち、近……いっ……! 肩、触っちゃ、ら、めっ……!」
「あれ? これって俺ん家に置いてたのと同じ漫画じゃん。四郷ってこういうのも読むのか」
「……せ、先輩と、同じ話題、ほ、欲しかった、からっ……! お、お願い、離してッ……! も、もう、ボク、もうダメぇえぇッ……!」

 すると意外なことに、彼女が読んでいた本が少年漫画であることがわかった。普段は機械工学だか生物学だかの難しい本ばっかり読んでるから、こういうのは読まないイメージだったんだけどな。
 ……まぁ、官能小説だって嗜んじゃうムッツリさんなんだし、これくらいは守備範囲なのかもな
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