暁 〜小説投稿サイト〜
フルメタル・アクションヒーローズ
第149話 いつも通りと違う昼
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…確かあの娘、最近例のファンクラブにも入ったんだっけ? 『救済の超機龍』に渡したいってんならわからなくもないけど、俺に渡しちゃいかんだろ……?」

 だが、自分の正体がバレているケースなど微塵も考えていない彼が、自力で正解にたどり着くことはないのかも知れない。

 龍太にとっての不思議な現象は、これだけでは終わらない。校舎と部室棟を繋ぐ道を渡る彼は、偶然一人の男子生徒と巡り会うのだった。

「――よう。一煉寺」
「ゲッ……よ、よぉ」

 その人物は、中学時代に龍太をいじめていたグループの一人。二年前の救芽井樋稟に絡んだことが災いして、拳法を磨いた龍太に撃退されて以来だった。
 矢村賀織の一件で転校を余儀なくされていた彼は、二年前の冬にこの町に戻り、こうして松霧高校に通っているのである。不良として有名なためか、周囲から避けられがちな彼は、クラスが離れていることもあり、今の今まで龍太とは一度も顔を合わせていなかった。

 龍太にとって、これほど気まずい相手はなかなかいないだろう。
 今なら殴り掛かられても負けはしないだろうが、プロのヒーローを目指す人間として下手な喧嘩はできない。かといって、因縁を付けられたら、泥沼の対立関係が卒業まで付き纏うかも知れない。
 そうして、どうするべきかの答えが見出だせず、龍太は混乱するように視線を泳がせていた。そんな様子の彼を、男子生徒本人は冷めた雰囲気で見つめている。

「お前、これから部活?」
「ま、まぁ、一応」
「ふーん……」

 やがて、彼は早いペースで歩き出し、咄嗟に身構えた彼の肩にぶつか――るギリギリですり抜け、そのまま通り過ぎて行った。

「えっ……!?」

 何が起きたかわからず、龍太は目を丸くして後ろを振り返る。その瞳には、一切の殺気を滲ませない少年の背中が映されていた。

「……邪魔、したな」

 そして、その不満げな呟きは龍太に聞こえない程度に、この場に響き渡るのだった。繊細に浜辺を撫でる、さざ波のように。

 ――教室を出てから、部室棟にある部室にたどり着くまでの距離は、ほんの僅か。その短い道程の中で、龍太はただならぬ違和感を覚えていた。

 今まで何の接点も関心もなかったはずの生徒達が、いきなりかいがいしく声を掛けるようになり。自分を散々いじめて、こき下ろしていたはずの不良が、憎まれ口の一つも叩かずに静かに立ち去ったり。

 何が原因かは(本人だけ)不明であるものの、夏休み前とは明らかに「違う日常」になっていたのだ。得体の知れない環境の変化に、龍太は「着鎧甲冑部」の入口に近づきながら眉をひそめる。

「――ま、いっか」

 だが、すぐにその表情は穏やかなものになった。理由は何であれ、そうした周囲の変化に温もりを感じていたためである
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