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死後の恋
第一章
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                死後の恋
 イワノフ=シェラレフコフは妻のイカリナを深く愛していた、その愛情は二人が老いても変わらなかった。
 それでだ、彼はよく妻に言っていた。
「若しイカリナが死んでも」
「それでもなのね」
「私はずっとイカリナと共にいたい」
 もう二人共七十になっている、金婚式も終わり後はどれだけ生きられるかという年齢になっている。
 その年老いていて髪の毛もすっかり白くなった顔でだ。シュレフロフは妻を穏やかな顔で見て話した。
「それからも」
「そうなのね、それはね」
「イカリナもか」
「ええ」
 イカリナもすっかり年老いている、顔には皺が深く幾つもあり髪の毛は夫と同じ色になっている。身体も随分と弱弱しくなっている。
「そのつもりよ」
「そうか、ではだ」
 夫は妻の言葉を聞いて微笑んで言った。
「死んでも共にいたいが」
「最後の審判の後でも」
「どちらかがこの世を去ってもな」
「そうなってもというのね」
「一緒にいるか」
 こう妻に提案したのだった。
「私達は」
「そうね」
「これから何があっても。だからな」
「だから?」
「若し私が先に逝っても悲しまないでくれ」
 こう妻に言うのだった、至って穏やかな顔で。
「そして私もな」
「私が先に逝っても」
「悲しまない、常にイカリナがいるのだから」
 彼女が共にいるのだからというのだ。
「そうする、そしてだ」
「この世を去るまでなのね」
「私は悲しまずにいる」
「そうなのね、ではね」
「うむ、一人になってもな」
 どちらが先に逝ってもというのだ。
「悲しまないでいよう」
「わかったわ、私もね」
 イカリナは夫に微笑んで応えた、そしてだった。
 二人は老後の時間を過ごしていった、首都ソフィア郊外の静かな家の中でそうした話をしていた。
 シェラレフコフが九十歳、イカリナが八十八歳の時に遂にイカリナが逝った。死因は老衰だった。
 イカリナは子供や孫、ひ孫ひいてはやしゃ孫達に見送られて笑顔で見送られた。その死に顔を見て子供達も孫達も話した。
「いい顔だな」
「そうね」
「とても穏やかで」
「何の心残りもない」
「そうした顔だよね」
 まさに天寿を全うした顔だというのだ。
「長い人生で色々あったけれど」
「幸せな人生だったんだな」
「お祖父ちゃんとずっと一緒にいて」
「そうだったのね」
「けれど」
 ここでだった、子供達も孫達もシェラレフコフを見た。そのうえで彼に心配そうに声をかけた。
「ただ。お父さんは」
「お祖母ちゃんがいなくなったら」
「寂しいよな」
「そうよね」
「いや、大丈夫だ」
 見れば彼も穏やかな顔だった、長い間連れ添った妻が先に逝ってもそれでもだった。
 穏やかな顔
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